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私の秘密  作者: 響子
第1章
17/51

新しい未来に向かって 1

「いってらっしゃい」

「…いってきます」


いつもと変わらない朝、いつもと変わらない風景…

私のお茶碗、私の箸、私のマグカップ…すべて袋に入れた。宅配の人にダンボールを頼むと私はさっきの袋を片手に部屋を出た。出て行く日を今日に決めたのは今日が不燃ごみの回収日だからだ。ゴミを捨てて鍵をポストに入れた。


―――もし…もし私がすべてを話しても樋口は私と一緒にいてくれるだろうか?結婚すると言ってくれるだろうか?今更勝手過ぎる。勝手だとはわかっているが思わずにはいられなかった。精一杯の後悔を抱えながら私は名古屋へ向かった。





名古屋での出だしは最低だった。何をする気力もなく、布団に包まって泣いてばかりいた。そんな中、唯一の救いは甥っ子達の存在だった。毎日やってきては本を読んでくれたり天気だから遊ぼうと誘ってくれたり…そして私は携帯番号を変えた。変えずそのままにしていればいつか樋口から連絡があるんじゃないかと思ってしまう。


「それではエリアが変わったと言うことで番号を変更させていただきますね。メールアドレスも変更になりますのですみませんがご了承下さい」


どうやら特別に料金を取られずに番号の変更が出来るようだ。姉夫婦は違う携帯会社、私が以前使っていたところだったのでそちらに変更するようにと言ったが私は携帯会社を変えることはしなかった。唯一彼とお揃いとも言えるものだったから…


いつまでも泣いてばかりいられないので私は派遣登録して働くことにした。新天地なので言葉も人間関係も私には全く慣れていない。普通に就職する前に少し慣れておいた方がいい気がしたからだ。

派遣登録にはワードやエクセルの実技があり、どれくらい出来るのかと言う把握を会社でされたのだが…


「えっ?PCは独学なんですか?」

「はい、自分で憶えましたけど…?」

「でもすごい実力ですよ?」


樋口が貸してくれていたPCで勉強したおかげでかなりスキルは上がっていたらしい。私が引っ越してきたばかりで普通に就職したいけど人間関係とか不安だと言うとちょうど大学の短期事務の募集があり、そこを勧めてくれた。期間は4月いっぱい。私の新生活が始まった。

そしてあっという間に3年の月日が経った。





「高田さん、これ請求書出してください」

「はーい、あ、ここって…」

「ええ、いつものように配達記録付でお願いします」

「何でこの会社だけ請求書が普通に届かないんだろうねぇ」

「いいんですよ。その分郵便代を追加して請求してますから」

「ひなたちゃんって ちゃっかりしてると言うか…意外と怖いね」

「やだ!普通ですよ普通!」


私は義兄の会社にいた。

最初大学の短期事務をして、次の場所を探していると派遣会社かCADの使い方講習の連絡があった。ふと思い起こすと樋口からCADの使い方は習っていた気がしてその旨を派遣会社に伝えると どれくらい使えるのかみたいので再度会社に来て欲しいと言われた。


「佐伯さん、何で最初にCAD使えるって言ってくれないんですか」

「え?あ…忘れてました」

「忘れて…あのですね、普通の事務とCADオペレーターの仕事は時給が300円以上違いますよ」

「は?そうなんですか?」


CADオペレーターは製図が終わるまでが仕事なので大抵残業が多く、かなり収入が見込めるらしい。それを姉夫婦に話すと


「ひなたちゃんCAD出来るの?だったらうちで働かないか?」

「お兄さんのところですか?」

「うちは図面を書く人間がいなくて俺が書いてるんだけど どうも手が回らなくて…」


義兄はいつも遅くまで仕事をしていたのは知っていた。もし義兄のところで働けば…通勤時間は1分だ。何しろ私の住んでいる部屋は兄の会社の2階なのだから…

それから義兄のところで働くようになり、仕事の内容を理解できるようにと本を買って勉強し始めた。そして今では…義兄の変わりにすべての図面を仕上げ、現場でのプログラム変更を指示し…


「前は社長がいないとどうしようもなかったけど 今はひなたちゃんがいるからいいね」

「そうそう、社長も外でガンガン働いて稼いでもらわないとね」


前はいちいち事務所に戻って指示をしていたらしいが、それもしなくてよくなったのですっかり義兄は現場の人になった。喜んでいるのは甥っ子たちだ。帰ってきてお風呂に一緒に入れると拓馬は大喜び。私は忙しい時は寝る時間を削って仕事をした。仕事をしていれば何も考えずにすむ。


あれから私は2,3人ほどの人に付き合ってくれと言われた。だがどうしても前のような気持ちにはなれずすべて断った。風の便りに樋口は誰かの紹介でお見合いをしたと聞いた。確実に私達の間に時間が流れていた。

  


  

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