別れの覚悟 2
「年末は仕事は休みなんだろ?うちの実家に一緒に来ないか?」
夏は私と一緒に温泉に旅行に行って お盆休み実家に行けなかったので 樋口は年末は実家に帰ることにしていた。私を1人ここにおいて行くのが忍びなかったのだろう。
「えっとね、姉がこっちに甥っ子たちを連れて帰ってくるから 年末は姉たちと過ごすことになってるんだ」
「そっか…ひなた 俺お前のお姉さんたちにちゃんと挨拶したいんだけど いつこっちに来るんだ?」
「あ…うん、きっと年明けてもしばらくいると思うから 帰ってきてからでもいいんじゃないかな?」
いろんなことが頭の中をよぎる。年明けたら…私は名古屋に行く事を樋口に告げよう。そして綺麗に別れよう。でもギリギリまでは樋口の彼女でいたい。
「ん?どうした」
「なんでもない。ちょっと抱きつきたい気分だっただけ」
「どこがクールビューティなんだか…」
「ん?何か言った?」
「いや、お前は変なやつだなって」
「褒め言葉として受け取っておきます」
いつもと変わらない時間、いつもと変わらない会話…すべてが私の宝物になる。
クリスマスは2人で家で過ごした。樋口はどこかに食事に行こうかと言ったが、私は2人の時間を大事にしたかった。
「じゃあクリスマスプレゼントは何がいい?ネックレスとか?」
「うーん…貴金属とかそういうのはあまり…」
「そうだよなぁ、お前ホントにそういうの欲しがらないよな」
基本そういうのに興味はなかった。今までも男たちからそういうのをもらったが、嬉しいと思ったことは一度もない。
「バックか?服か?…興味なさそうだよな」
「うん…だからプレゼントとかいらないから。気にしないで」
「でもなぁ…本当に何もほしくないのか?欲しいものがあるなら遠慮なく言ってみろ。お前を甘やかすくらいの甲斐性はあるぞ?」
「………ほ…しい」
「何?」
「…祐輔さんが欲しい…」
「お前なぁ…俺はお前のものだろ?ホントお前って不意に可愛いこと言うよな」
樋口は私の手を引っ張るようにして抱き寄せてくれた。目を閉じればキスが落ちてくる。私の欲しいものは樋口祐輔、だけどそれは永遠に手に入らない。今は私の体に樋口を刻み付けることしかできなかった。
年末になり樋口は心配そうに実家へと帰っていった。それと入れ違いで姉はやって来た。
「ひなたお姉ちゃん!」
「うわー 数馬大きくなったね。何歳だっけ?10歳か?」
「うん、小学4年生」
「で?こっちが拓馬?こんにちは」
「…こんにちは」
私は実家で姉たちを向かえた。普通に甥たちと話をし、さすがに疲れたのか2人は早めに寝てくれた。
「ひなた、前から言ってるけど名古屋に来ない?やっぱりあなた1人ここに置いておくのは心配だし…それにあなたここに住んでないよね?」
「うん…」
「別に一緒に住めと言ってるわけじゃないの。部屋はね、うちの旦那が独身のとき会社の上に作った部屋があるからそこに住んだらどうかな?って思うの。そしてこの家は借家にすればいいし…売ってしまってもいいけど 数馬はお婆ちゃん子だったからこの家は数馬に残してあげたい気もするしね」
「うん…」
「うんって ひなたそれでいいのね?名古屋に来てくれるのね?」
「わかったから…これからお世話になります」
これからのことを少し話をして私は樋口の家に戻った。姉は泊まっていくように強く勧めたが、もうすぐ名古屋に行く事になっているのだから好きにさせて欲しいと言うとしぶしぶ納得してくれた。
部屋に戻ってベッドに入ると樋口の匂いがした。私は1人大声で泣いた。たぶんこんなに泣いたのはあの日以来だ。今日泣いたらもう泣かない。泣いたらいけない。前を向いて歩いていこう。
大晦日、出発する頃になってはじめは人見知りしていた拓馬もすっかり私になれて駄々をこねられた。
「お正月終わって 名古屋に拓馬が帰ったら お姉ちゃんお引越ししてくるから それまで待っていてくれると嬉しいけどなー」
「ひーちゃん お引越ししてくるの?毎日遊べる?」
「ひなた姉ちゃん 名古屋に来るの?」
「うん、詳しくはママに聞いてね」
2人はうれしそうに電車に乗り込んだ。途中で義兄と合流して一緒に義兄の実家に行くらしい。
私は3人を見送って樋口の家に戻る。荷物を整理してすぐにでも送れる様にしたいし…そんな準備をしているとあっという間に除夜の鐘がなり出した。もう新年になる。樋口からのあけおめメールに返事を返して私は1人自分の体を抱きしめながら眠りに就いた。