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【まもる門と、帰りたい森 】―閉めた扉の向こうにも、帰りたい子がいる―

掲載日:2026/11/01

このお話は、「大切なものを守るために門を閉めた者」と、「その門の外に残されてしまった者」の物語です。


危険から誰かを守るために、扉や門を閉じなければならないことがあります。


それ自体が、間違いとは限りません。


けれど、閉じた扉の向こうにいる人にも、帰りたい場所があり、待っている人がいて、そこで過ごしてきた時間があります。


守る側には守る側の事情がある。

締め出される側には、締め出される側の寂しさがある。


どちらか一方の気持ちだけでは、きっと見えないものがあるのでしょう。


今回の物語では、門を閉めたクロを悪者にはしませんでした。

けれど、善意で閉めた門が誰かを傷つけたことも、なかったことにはしませんでした。


少し寂しくて、少し苦くて、それでも最後には、もう一度一緒に歩き出せるような童話になればと思います。


小さな動物たちの物語ですが、大人の方にも何かを感じていただけたら嬉しいです。

【まもる門と、帰りたい森】

―閉めた扉の向こうにも、帰りたい子がいる―


◆◆◆


 むかしむかし、深い森のまんなかに、小さな動物たちが暮らす村がありました。


 村のまわりには、立派な木の門がありました。


 その門を守っていたのは、黒い毛並みのクマ、クロでした。


 クロは力持ちで、勇敢で、誰よりも村のみんなを大切にしていました。


 嵐が来れば、倒れた木をどけました。

 狼が近づけば、村の前に立ちました。

 冬になれば、凍えた動物たちに薪を分けました。


 みんなはクロを頼りにしていました。


「クロが門を守ってくれるから、ぼくたちは安心して眠れるんだ」


 そう言われるたび、クロは少し照れくさそうに笑いました。


 そんな村に、ひとりのキツネがいました。


 名前はコン。


 コンは、森のあちこちを歩き回るのが好きでした。


 木の実を見つけるのも、遠くの川の音を聞くのも、知らない花を見つけるのも大好き。


 そして、門のそばで働くクロのことも、大好きでした。


「クロさん、今日も村を守っているの?」


「そうだ。みんなが安心して暮らせるようにな」


「そっか。じゃあ、ぼくはクロさんが安心できるように、帰ってきたらお茶を淹れてあげるね」


 コンは、そう言って笑いました。


 クロは、そんなコンの笑顔を見るのが好きでした。


◆◆◆


 ある年の秋。


 森に、黒い霧が流れてきました。


 霧に触れた木々は葉を落とし、小川の水は濁り、森の動物たちは咳き込むようになりました。


 村の長老たちは話し合いました。


「この霧が村に入れば、みんなが病気になってしまう」


「門を閉めよう。霧が晴れるまで、誰も入れてはいけない」


 クロは、門の前に立ちました。


 村を守らなくてはならない。


 その思いで、太い木の門を閉じました。


 ぎい。


 ごとん。


 大きな音が森に響きました。


 そのとき、コンはまだ森の外にいました。


 遠くの谷に、薬草を探しに行っていたのです。


「クロさーん!」


 コンは門まで走ってきました。


「ぼくだよ! 開けて!」


 クロは、門の隙間からコンを見ました。


「コンか。すまない。今は門を開けられない」


「でも、ぼくは村の仲間だよ」


「わかっている。だが、霧が入ればみんなが危ないんだ」


「ぼくは霧に触れていないよ。薬草も持っているんだ」


 コンは、背負っていた袋を見せました。


 けれど、クロは迷いました。


 もし、薬草に霧がついていたら。

 もし、コンの毛に霧が残っていたら。

 もし、門を開けたことで村のみんなが病気になったら。


 守らなければ。


 その思いが、クロの胸をいっぱいにしていました。


「コン。少しだけ待っていてくれ。安全が確認できるまで、門は開けられない」


「少しだけって、いつまで?」


「わからない」


 コンは、門を見つめました。


 いつもなら、クロが笑って開けてくれる門でした。


 帰ってきたよ、と言えば、

 おかえり、と返してくれる門でした。


 けれど、その日は違いました。


 門の向こうにクロがいるのに、

 コンの帰る場所は、門のこちら側になってしまったのです。


◆◆◆


 最初のうち、コンは門のそばで待っていました。


 朝になると、クロに声をかけました。


「おはよう、クロさん」


 夜になると、もう一度声をかけました。


「おやすみ、クロさん」


 クロは門の内側から返事をしました。


「おはよう、コン」


「寒くないか?」


「食べ物は足りているか?」


 コンは笑って答えました。


「大丈夫だよ」


 けれど、門は開きませんでした。


 何日も過ぎました。


 コンは、門の前に小さな寝床を作りました。


 クロの姿が見えるところに、木の実を並べました。


 村の子どもたちが、門の向こうから手を振ってくれることもありました。


 それでも、村の食卓には座れません。


 みんなと一緒に笑うこともできません。


 夜になると、門の向こうから楽しそうな声が聞こえました。


 コンは、ひとりで木の実をかじりました。


 そのうち、門に声をかける回数も減っていきました。


 ある日、クロが尋ねました。


「コン、今日は話さないのか?」


 コンは少し考えてから答えました。


「話しかけても、門は開かないから」


 クロは何も言えませんでした。


◆◆◆


 村の中でも、少しずつ変化が起きていました。


 コンの姿が見えなくなり、村の子どもたちは寂しがりました。


「コンはどこにいるの?」


「どうして一緒に遊べないの?」


 クロは答えました。


「みんなを守るためだよ」


 それは間違いではありませんでした。


 けれど、子どもたちは納得しませんでした。


「守るって、コンを外に置いておくことなの?」


 その問いに、クロは答えられませんでした。


 門の内側は安全でした。


 でも、いつからか、そこには笑い声が少なくなっていました。


 コンが見つけてきた珍しい木の実も、遠くの川の話も、夕暮れに聞かせてくれた森の歌も、なくなっていたのです。


 クロは、門の隙間から外を見ました。


 コンの寝床は、もうありませんでした。


◆◆◆


 季節がひとつ巡りました。


 黒い霧は、少しずつ薄くなっていきました。


 森の木々に新しい芽が出て、小川の水も澄んできました。


 長老たちは言いました。


「そろそろ、門を開けてもよいだろう」


 クロは、門の鍵を手にしました。


 けれど、すぐには開けられませんでした。


 門の外に、コンはいません。


 どこへ行ったのだろう。


 もう帰ってこないのだろうか。


 クロは初めて、自分が怖くなりました。


 霧が村に入ることよりも、

 コンが帰ってこないことを。


◆◆◆


 クロは、門を大きく開けました。


 森の風が、村の中へ流れ込みました。


 そして、外へ飛び出しました。


 コンを探すためです。


 川辺へ走りました。


「コーン! どこだー!?」


 木の実のなる丘へ向かいました。


「コン! いるなら返事をしてくれ!」


 薬草の谷にも足を運びました。


 茂みをかき分け、倒木の陰をのぞき込み、何度も名前を呼びました。


「コーン! 頼む、どこにいるんだ!」


 大きな体で森を駆け回るクロの息は、だんだん荒くなっていきました。


 それでも、足を止めませんでした。


 あのとき、門を閉めたのは自分だった。


 コンが帰ってこられなくなったのも、自分が門を開けなかったからだ。


 今度は、自分が探しに行かなければ。


 そう思って、クロは何度も何度も名前を呼びました。


「コン! コン!」


 そのとき。


 かさり、と草むらが揺れました。


 クロは、はっとして振り返りました。


 そこに、小さなキツネの耳が見えました。


「……クロさん?」


 コンでした。


 少し離れた木の陰から、コンがこちらを見ていました。


 クロは、すぐに駆け寄ろうとして、足を止めました。


 コンは、まだ少し怖そうにしていたからです。


「コン……!」


 クロの声が震えました。


「迎えに来たんだ」


 コンは、すぐには近づきませんでした。


 クロの大きな体を見つめ、門の方を見て、それからもう一度クロを見ました。


「本当に……帰っていいの?」


「ああ。もう霧は晴れた。村へ帰ろう」


 クロは、ゆっくりと手を差し出しました。


「帰ってきてほしいんだ」


 コンは、恐る恐る一歩を踏み出しました。


 それから、もう一歩。


 クロの前まで来ると、小さな前足をそっと差し出しました。


 クロは、その手を優しく受け止めました。


「……見つけてくれたんだね」


「ああ。ずっと探していた」


 コンは、うつむきました。


「ぼく、帰りたかったんだ」


 その声は、とても小さなものでした。


◆◆◆


 村の門が見えてきました。


 クロは、コンの歩幅に合わせて、ゆっくり歩きました。


 門の前で、コンは立ち止まりました。


 そこには、あの日と同じ大きな木の門がありました。


 けれど、今は開いています。


「コン。おかえり」


 クロが言いました。


 コンは、門の向こうを見つめました。


 村の家。

 見慣れた道。

 木の実のなる広場。

 そして、こちらを見つめる仲間たち。


 コンは、恐る恐る一歩を踏み出しました。


 小さな足が、村の土を踏みました。


 もう一歩。


 そして、もう一歩。


 そのとき、コンの目から、ぽろぽろと涙がこぼれました。


「やっと……戻ってこられたんだ」


 涙は止まりませんでした。


 門の前で待っていた日々。

 帰りたくても帰れなかった夜。

 もう二度と、ここへ戻れないかもしれないと思ったこと。


 そのすべてが、胸の中からあふれてきたのです。


 クロは、何も言わずにコンのそばにしゃがみました。


 コンは、クロの胸に顔をうずめました。


「ぼく、ずっと帰りたかった……」


「うん」


「クロさんに、会いたかった……」


「うん。もう、ひとりにしない」


 クロは、コンをそっと抱きしめました。


「おかえり」


 村の仲間たちも、静かにふたりを見守っていました。


◆◆◆


 その日、コンは村へ戻りました。


 けれど、前のように門を駆け抜けることはありませんでした。


 最初は、門の近くで過ごしました。


 食卓に座るのも、少しずつでした。


 村の子どもたちは、コンが戻ってきたことを喜びました。


「一緒に遊ぼう!」


「今度、森の話を聞かせて!」


 コンは、少しずつ笑うようになりました。


 クロも、少しずつ変わりました。


 門を閉める前には、外にいる仲間がいないか確かめるようになりました。


 どうしても閉めなければならないときには、外にいる動物たちに知らせ、食べ物や寝床を用意し、いつ、どんな条件で開けられるのかを一緒に考えるようになりました。


 門を閉めることだけが、守ることではないと知ったからです。


◆◆◆


 それから、また季節が巡りました。


 ある夕暮れ、コンはクロの隣に座っていました。


 門の向こうには、赤く染まった森が広がっています。


「ねえ、クロさん」


「なんだ?」


「今でも、門を閉めるのは怖い?」


 クロは、しばらく考えました。


「怖いよ。守りたいものがあるからな」


「そっか」


「でも、もうひとつ怖いことができた」


「なあに?」


「守ることに夢中になって、大切な仲間の帰る場所をなくしてしまうことだ」


 コンは、クロを見上げました。


「じゃあ、これからは一緒に考えよう」


「ああ」


「門を閉めるときも、開けるときも」


「ああ。一緒に考えよう」


 コンは、クロの大きな手に、そっと前足を重ねました。


 門は、今日もそこにありました。


 外から危険が来れば、閉じることもあるでしょう。


 けれど、その門は、誰かを追い出すためだけのものではありません。


 帰ってくる人を迎えるためにも、そこにあるのです。


 門のそばには、小さな札が掛けられました。


 そこには、クロの字でこう書かれていました。


『守るために閉めることがある。

 だからこそ、帰ってくる道を忘れてはいけない』


 そして、その下には、コンが小さな字で書き足しました。


『帰りたいと思える場所でありますように』


 夕暮れの森に、ふたりの笑い声が響きました。


挿絵(By みてみん)


 門の向こうにも、こちら側にも、

 帰りを待つ仲間がいる。


 それを忘れないように。


(おしまい)


最後までお読みいただき、ありがとうございます。m(_ _)m


この物語を書きながら、私は「守る」という言葉について考えていました。


大切なものを守るために、危険を遠ざける。

そのために、門を閉める。


それは、ときに必要な判断なのだと思います。


けれど、門を閉めたことで、その外にいる人がどうなっているのか。

帰る場所を失った人が、どんな気持ちで待っているのか。


そこまで考えなければ、本当に守ったことにはならないのかもしれません。


今回の物語には、現実の出来事から考えたことも重ねています。


安全を守るための仕組みや変更が必要になることはあります。

しかし、その変化によって、これまでそこにいた人が戻れなくなってしまうこともあります。


長く過ごした場所。

積み重ねてきた作品。

そこで出会った人たち。

そして、続きを待ってくれている誰か。


それらは、簡単に別の場所へ移せるものではありません。


もちろん、安全を守ることと、誰も取り残さないことを、いつも同時に実現できるとは限らないでしょう。


だからこそ、門を閉める必要があるときには、外にいる人への知らせや、待つ場所、帰るための道を考えてほしい。


そして、門を閉めた側にも、いつかもう一度、迎えに行く勇気を持ってほしい。


クロは、すぐに許してもらえたわけではありません。

コンも、すぐに以前と同じ気持ちに戻れたわけではありません。


それでも、時間をかけて、少しずつ関係を取り戻していきました。


私は、そこを大切にしたかったのです。


門を閉めることがあっても、帰る道まで閉ざしてはいけない。


そして、帰ってきた人には、こう言える場所であってほしい。


「おかえりなさい」


この物語が、誰かの帰りを待つ人にも、帰りたい場所を探している人にも、そっと届きますように。


最後に。


守るために門を閉めたヒーローも、

門の外で帰りを待っていた仲間も、

どちらも大切な森の住人なのです。


どうか、この世界がみなさまに優しい世界でありますように。(*人´ω`*)


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 軍用艦の場合、被弾浸水区画に生存者がいることが分かっていても、艦の沈没を防ぐために水密扉を閉鎖するとか(ひどい)。でもこれは死ぬのも仕事と覚悟して志願した軍人さんにしかできない。  閉じる前の予告方…
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