第6話 『再び、病室の窓辺で』
春も深まったある日。
蒼が突然、体調を崩した。
胸の痛み、息の苦しさ。
以前の悪夢が、頭をよぎる。
娘はまだ中学二年生。
「ぱぱ、どうしたの?」
蒼は微笑もうとするけれど、声が少し震える。
「大丈夫…でも、ちょっと検査が必要だ」
病院の廊下。
娘は手を握りながら歩く。
「怖い…」
小さな声。
私はそっと肩を抱く。
「怖くて当然だよ」
娘はうなずく。
「でも、泣かなくてもいい」
蒼は少し離れて歩く。
「……心配かけて悪いな」
娘の目は涙で光っている。
「大丈夫だよ、ぱぱは強いから」
その言葉に、蒼も少し安心したように見える。
病室。
赤いランプが静かに光る。
蒼はベッドに座り、点滴の管を握る。
娘は隣の椅子に座り、静かに手を握る。
「ぱぱ、また怖くなる?」
蒼は息を吐く。
「少しな…でも、今回はお前がいる」
娘の手が、ぎゅっと握り返す。
「怖いけど、一緒に頑張ろう」
蒼は微笑む。
「そうだな、怖くても、もう一度、戦える」
検査は数日続いた。
夜になると、娘は蒼の横で絵本を読み聞かせる。
小さな声。
「ぱぱ、怖くなったら、私を見てね」
蒼は頷き、少し笑う。
「お前の顔を見ると、勇気が出る」
窓の外、桜の枝が揺れる。
赤いランプは今も点いているけれど、恐怖は前ほど大きくない。
家族の絆が、光になっている。
ある晩。
蒼は静かに窓辺を見つめる。
「また来たな…春の試練」
娘がそっと肩に触れる。
「怖くても、春はちゃんと来るよ」
蒼は目を閉じ、深呼吸する。
「うん…また一歩、進めるな」
その手には、娘の温もり。
赤いランプが光を反射する。
でも、その向こうに、確かに春はある。
怖くても、揺れても、家族と一緒なら進める。
春は、まだ終わらない。
――つづく。




