第4話 『すれ違う気持ち』
春の午後。
娘が家に帰ると、少し落ち込んだ様子だった。
制服のリボンがいつもよりゆるんでいる。
蒼が気づき、そっと声をかける。
「どうした?今日は元気なかったな」
娘は俯いて答える。
「うまくいかなくて…」
「告白?」
娘は小さくうなずく。
「返事がね…うまく言えなかったみたい」
蒼は肩を落とす娘の姿を見て、胸が痛む。
「でも、それで終わりじゃない」
娘が顔を上げる。
「え?」
蒼は穏やかに微笑む。
「大事なのは、勇気を出したことだ」
「でも…私、何も変わらないみたいで」
私はそっと手を握る。
「変わってるよ。お前自身が一歩踏み出したんだから」
娘は少し考えて、頷く。
翌日。
学校で友達と話しても、どこか気まずさが残る。
返事が返ってこなかっただけなのに、胸の奥がざわざわする。
放課後。
娘は帰り道、一人で歩きながら思い出す。
「怖くて…でも、やらなきゃって思ったんだ」
涙が頬を伝う。
「でも…それでも、前に進めた」
そのとき、小さな声がした。
「大丈夫だよ」
振り向くと、友達がそっと微笑む。
「私も勇気出してみる」
その言葉に、娘の肩が少し軽くなる。
「ありがとう」
二人で並んで歩く帰り道。
夕陽が長く影を作る。
春の光が、少しだけ二人を包む。
夜。
家に帰ると、蒼がリビングで待っていた。
「今日も、ちゃんと帰ってきたな」
娘は少し照れながら笑う。
「うん…怖かったけど、頑張った」
蒼は優しく頷く。
「その勇気が、次の春につながるんだ」
娘が小さく息を吐く。
「怖いけど、少し楽しいかも」
蒼は微笑む。
「怖さはある。でも、前に進むと景色は変わる」
夜空の窓の外には、まだ桜が舞っている。
春は、進む勇気をくれる。
そして、たとえすれ違っても、必ず光は差す。
赤いランプの光ではなく、春の光が。
――つづく。




