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『君がいない春に、桜は咲かない』  作者: 優貴(Yukky)


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第4章 「君が歩き出す季節」 第4章・第1話 『はじめての告白』

娘が中学二年生になった春。

制服姿が、少しだけ大人びて見える。

蒼は玄関で固まっていた。

「……早くない?」

私は笑う。

「時間はちゃんと更新されてるの」

娘は照れながら靴を履く。

「ぱぱ、見すぎ」

蒼は慌てて視線を逸らす。

でも、その目は優しい。

その日の夜。

娘が珍しく、蒼の隣に座った。

テレビはついているけれど、誰も見ていない。

「ねえ、ぱぱ」

蒼が振り向く。

「ん?」

娘は少し迷ってから、言った。

「好きな人ができた」

空気が止まる。

私は思わず息を止める。

蒼は――

数秒、固まったあと。

「……ほう」

声が低い。

娘が慌てる。

「別に!まだ何もないから!」

蒼は深く息を吐く。

「そっか」

少しだけ、遠くを見る目。

「いいな」

娘が驚く。

「怒らないの?」

蒼は首を振る。

「好きになるのは、止められない」

静かに続ける。

「でもな」

娘を真っ直ぐ見る。

「自分を大事にできる相手かどうか、ちゃんと見ろ」

娘の目が揺れる。

蒼の声は、あの赤いランプの前で震えていた少年のものではない。

たくさん泣いて、たくさん守ってきた男の声。

「自分を傷つける恋は、春じゃない」

娘は、ゆっくりうなずく。

「うん」

夜遅く。

蒼がベランダで空を見上げていた。

私は隣に立つ。

「ショック?」

蒼は苦笑する。

「ちょっとな」

そして、少しだけ目を細める。

「でもさ」

「ん?」

「俺も、誰かを好きになったから今がある」

その目は、私を見ている。

「止められないよな」

私は笑う。

「更新だね」

蒼は小さくうなずく。

「バトン、渡してる気がする」

命だけじゃない。

想いも。

勇気も。

優しさも。

数日後。

娘が、ぎこちなく言った。

「告白、してみる」

蒼は一瞬目を見開く。

でも、すぐに笑う。

「行ってこい」

娘が玄関を出る前。

蒼は呼び止める。

「なあ」

娘が振り向く。

蒼は少し迷ってから、言う。

「怖くても、逃げるな」

あのとき、自分に言えなかった言葉。

娘は、力強くうなずいた。

「うん!」

ドアが閉まる。

蒼はしばらく立ち尽くす。

「春だな」

私は頷く。

「うん、春だね」

赤いランプは、今日は点いていない。

でも、胸の奥で小さく灯る光がある。

それは、不安でも絶望でもなく。

“始まり”の光。

娘がどんな結果を持って帰ってくるのかは、まだ分からない。

でも、きっと大丈夫。

怖くても、進める子だから。

だって――

あの赤いランプの向こう側を歩いてきた、

あの人の娘だから。

春は、また巡る。

今度は、君が歩き出す季節。

――つづく。

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