表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『君がいない春に、桜は咲かない』  作者: 優貴(Yukky)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/61

第2章・第10話(2章最終話) 『春は、何度でも来る』

あれからさらに一年。

蒼は、相変わらず忙しい。

患者支援コーディネーターとして働きながら、夜は大学院で学び続けている。

再発は――ない。

定期検査は続いているけれど、数値は安定している。

「今回も更新」

検査結果を見て、蒼が笑う。

もうその言葉は、冗談じゃない。

生きている証明だ。

春。

あの病院の前の桜が満開だった。

蒼が言う。

「ちょっと付き合って」

連れて行かれたのは、あの廊下。

赤いランプを見上げた場所。

静かな夕方。

ランプは消えている。

穏やかな光だけが差し込んでいる。

蒼が、ゆっくり息を吸う。

「ここでさ」

右手を見る。

少し震えている。

でも、逃げない。

「俺、二回死にかけた」

胸が締めつけられる。

「怖かった」

正直な声。

「あのとき、お前いなかったら」

言葉が詰まる。

「たぶん、途中で諦めてた」

涙がにじむ。

私は首を振る。

「蒼が頑張ったんだよ」

蒼は、首を横に振る。

「一人じゃ無理だった」

静かに続ける。

「赤いランプの前で、何回も立ってくれた」

私の目から涙が落ちる。

「泣き虫だったのに」

「うるさい」

笑いながら、泣く。

蒼が、ポケットに手を入れる。

小さな箱。

心臓が止まりそうになる。

蒼が、深呼吸する。

「なあ、美桜」

声が少し震えている。

「俺、完璧じゃない」

右手を見せる。

震えている。

「傷だらけだし、いつ何があるか分からない」

一歩、近づく。

「でも」

目が、まっすぐ。

「あの日、春を諦めなかった」

箱を開く。

小さな指輪。

「これから先も、何回でも春を迎えたい」

涙で視界が滲む。

蒼が言う。

「俺と、更新し続けてくれませんか」

嗚咽が漏れる。

返事なんて、一つしかない。

「はい」

声にならない。

でも、ちゃんと届いた。

蒼が笑う。

あの頃と同じ笑顔。

でも、もっと強い。

指輪をはめるとき、少し手が震える。

「貸せ」

私がそっと支える。

二人で、はめる。

完璧じゃない。

でも、それでいい。

そのとき。

遠くで、赤いランプが一瞬だけ点いた。

私は、思わず見る。

蒼も見る。

でも。

今は、立ち尽くさない。

蒼が言う。

「行こう」

私はうなずく。

二人で、廊下を歩き出す。

怖さは消えない。

未来の保証もない。

でも。

春は、一度きりじゃなかった。

何度も、何度も取り戻した。

だからきっと。

これからも。

桜の花びらが舞う。

蒼が、私の手を握る。

震えている。

温かい。

確かな鼓動。

命のリズム。

春は、何度でも来る。

そして私たちは、そのたびに更新する。

――終わり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ