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『君がいない春に、桜は咲かない』  作者: 優貴(Yukky)


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第1章「笑ってる君が、いちばん遠い」

春は、出会いの季節だと言う。

でもこの物語は、

「別れ」から始まる。

桜は、満開のときがいちばん綺麗だと人は言うけれど、

私は知っている。

本当に胸が痛くなるのは、

まだ咲ききっていない花びらが、

風に耐えきれず落ちていく瞬間だということを。

あの日、あなたは笑っていた。

いつも通り、軽くて、眩しくて、

少し意地悪で、

世界のどこにも不安なんてないみたいに。

でも私は知ってしまった。

あなたの笑顔の奥に、

「終わり」が隠れていたことを。

人はどうして、大切な人ほど守ろうとして、

何も言わなくなるのだろう。

どうして、

「好き」と「怖い」は

こんなにも似た顔をしているのだろう。

この物語は、

言えなかった言葉の話だ。

伝えられなかった想いの話だ。

そして――

それでも、

確かにそこにあった“春”の話だ。

もし、あなたにも

忘れられない誰かがいるなら。

ページをめくる準備をしてほしい。

きっと、少しだけ痛いから。

でも、その痛みは、

きっとあなたの中で、何かを優しく揺らす。

これは、

「君がいない春」に抗おうとした、

一人の少女の記録である。

1話

三月の終わり。

まだ肌寒い風の中、校門の桜は咲きかけていた。

「蒼、遅刻だよ」

いつものように声をかける。

でも、返事はない。

三日前から、蒼は学校に来ていない。

“ただの風邪”

クラスにはそう伝えられている。

だけど、美桜は知ってしまった。

昨日、病院で。

母の見舞いで訪れた総合病院。

廊下の角を曲がった瞬間、聞こえた声。

「急性白血病です」

医師の低い声。

そして。

「……どれくらい、持ちますか」

その問いは、蒼の母の声だった。

足が動かなかった。

世界が、音を失った。

「治療はします。ただ、進行が早い。半年……」

それ以上、聞けなかった。

翌日。

蒼からメッセージが届く。

“ちょっと入院するわ。春休み明けには戻る”

いつも通りの軽い文。

ふざけたスタンプ付き。

指が震える。

“嘘つき”

打ちかけて、消した。

代わりに送ったのは、

“ちゃんと治して戻ってきなさいよ”

強がりの言葉だった。

放課後。

教室の蒼の席に座る。

机の中に、くしゃくしゃのテスト用紙。

赤点ぎりぎり。

「ほんとバカ」

笑おうとして、できなかった。

なんで言ってくれなかったの。

なんで一人で背負うの。

なんで、笑ってるの。

数日後、病院へ向かった。

病室の前で深呼吸する。

ドアを開けると、

「よ、美桜」

いつもの蒼がいた。

点滴をつけている以外、何も変わらない顔。

「暇すぎて死ぬ」

冗談のつもりだろう。

でも、その言葉が胸に刺さる。

「バカ」

思わず言う。

「死なないでよ」

空気が止まった。

蒼の笑顔が、ほんの一瞬だけ崩れる。

でもすぐ、いつもの顔に戻る。

「死なねーよ。俺、運強いし」

また嘘。

美桜は知っている。

強がってるときの蒼の癖。

右手の指を、ぎゅっと握る。

今も、握っている。

帰り道、桜が一輪だけ咲いていた。

まだ早いのに。

「……間に合うよね」

何に、とは言わなかった。

春が終わるまで。

卒業式まで。

その先まで。

蒼が、ちゃんと笑っていられる時間が。

夜、スマホが震える。

蒼から。

“なあ美桜”

“もしさ”

“俺がいなくなったらさ”

それ以上は来なかった。

既読をつけられない。

怖くて。

怖くて。

桜の花びらが、風で落ちる。

まだ咲ききってもいないのに。

――春は、始まったばかりなのに。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

この物語は、「失うこと」を描いた話です。

でも本当は、「失っても消えないもの」を描きたくて書きました。

人は、いつか必ず別れます。

それが今日なのか、何十年も先なのかはわからないけれど、

永遠に同じ時間を歩ける人はいません。

だからこそ、

言えなかった一言が、

伝えられなかった想いが、

あとになって胸を締めつける。

「もっと素直になればよかった」

「もっとちゃんと好きって言えばよかった」

そんな後悔は、きっと誰の中にもあります。

でも、この物語を書きながら、

私はひとつ思いました。

たとえ言葉にできなくても、

たとえ途中で途切れてしまっても、

確かに誰かを想った時間は、

消えないのだと。

笑った日も、

泣いた日も、

すれ違った日も。

全部が、その人と生きた証です。

もしあなたのそばに、

今、大切な人がいるなら。

どうか、今日という一日を

当たり前にしないでください。

「また明日」は、

奇跡の上に成り立っています。

そしてもし、

もう会えない誰かを想いながら

この物語を読んでくれたなら。

あなたの涙は、弱さじゃありません。

それだけ大切に想えた証です。

桜は散っても、

春はまた巡ります。

でも、同じ春は二度と来ません。

どうかあなたの“今”が、

後悔の少ないものでありますように。

この物語が、

あなたの心のどこかに

静かに残ってくれたなら、

それ以上の幸せはありません。

――ありがとう。

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