聖域の主と、至福のブラッシング・タイム
エドワードから託された銀の鍵を、古城の最奥にある古ぼけた扉に差し込むと、重厚な音を立てて扉が開きました。
そこは、天井から柔らかな光が差し込み、色とりどりの不思議な花が咲き乱れる「秘密の庭園」。
足を踏み入れた瞬間に感じたのは、これまでのダンジョンの緊張感を完全に忘れさせる、陽だまりのような温かさでした。
「わぁ……すごい……」
シノが息を呑んでいると、庭園の中央にある巨大な樹の影から、ゆっくりと「それ」が現れました。
体長は銀狼の数倍はあるでしょうか。ライオンのような堂々たる体躯に、大きな鷲の翼。しかし、その全身は驚くほど白く、綿飴のようにフワフワとした長い毛で覆われています。
『……銀の鍵に導かれし者よ。我が聖域に、何用か』
低く、けれどベルベットのように心地よい声が響きます。庭園の主、伝説の霊獣レオン・フェザーです。
「あ、あの! 私はシノと言います。この子たちに『甘いお花』を食べさせてあげたくて、エドワードさんに鍵をいただきました。……それと、あなたの毛並み、とっても素敵ですね」
恐怖よりも先に「触れてみたい」という純粋な感嘆が言葉になって出たシノ。
レオン・フェザーは黄金の瞳を細め、意外そうにシノを見つめました。
『ほう……。我を前にして、まず毛並みを褒めるとは。面白い娘だ。……よかろう、まずはその実力を、我が毛に示してみせよ』
「実力……? はい! お任せください!」
シノはアイテムボックスから、街で買い込んでいた「高級木製ブラシ」を取り出しました。
レオン・フェザーが巨体を横たえると、シノはその広大な「モフモフの大地」へと踏み込みます。
「失礼します……。わぁ、層が厚い……。まずは表面のホコリを払ってから、根元をゆっくり……」
シノはゲーム初心者ゆえに、スキルの効率などは考えません。
ただただ「気持ちよくなってほしい」という一心で、丁寧に、丁寧にブラシを動かします。
「調律師」の力が指先から伝わり、レオン・フェザーの毛並みが魔法をかけたように輝き始めました。
それを見ていた庭園の小動物たち——綿毛のようなウサギや、長い尾を持つリスたち——も、次々とシノの周りに集まってきます。
「あ、順番にやるから待っててね! あなたは耳の後ろが痒いのかな?」
気づけば、シノは巨大な霊獣の背中を枕にしながら、膝に三匹のウサギを乗せ、両手でリスたちをブラッシングするという、「モフモフの王」のような状態になっていました。
【システムメッセージ】
スキル:『神の手』を獲得しました。
スキル:『種族を超えた絆』の熟練度が最大になりました。
レオン・フェザーの好感度が「心酔」に達しました。
『……ふ、ふふ……。これほどの悦楽、数百年ぶりよ……。シノ、貴殿を我が友と認めよう……』
最強の霊獣が、シノのブラッシングに抗えず、完全に「とろけて」しまっていました。




