最終話:空を駆ける銀嶺と、終わらない旅の地図
数千年の孤独から解き放たれ、身も心も(そして毛並みも)ピカピカになった守護龍アルビオンは、シノにこう告げました。
『シノよ。貴殿のその温かな手は、この世界の淀みを浄化する。……礼と言っては何だが、貴殿の行きたい場所まで、我が翼で送り届けよう』
「えっ、アルビオンさんに乗っていいの!? ……ふふ、ありがとう。じゃあ、みんなが待っているあの街まで、お願いできるかな?」
シノは銀狼とルナ・コットンを抱え、白銀に輝く龍の背へと飛び乗りました。アルビオンが大きく翼を広げ、アステリア島を飛び立つと、雲海を割って一気に地上へと急降下します。
始まりの街「プリムラ」の上空に、巨大な影が差しました。
プレイヤーたちが「なんだ!? ボス襲来か!?」と武器を構えて見上げると、そこには太陽の光を反射して白銀に輝く美しい龍の姿が。
そしてその背中で、のんびりと手を振る一人の少女。
「あ! あの子は……『モフモフの聖女』だ!」
「龍の背中に乗ってるぞ! しかもあの龍、めちゃくちゃ毛並みが良くないか!?」
アルビオンが街の広場へ優雅に降り立つと、そこにはギルドマスターのガウル、受付嬢のセシル、そしてドワーフのバルカンの姿もありました。
「おいおい……フェニックスの次は守護龍かよ。嬢ちゃん、君の『のんびり』の規模は、どうなってやがるんだ?」
ガウルが呆れ顔で笑い、バルカンは「俺のブラシが龍の毛にも通用したか!」と自慢げに鼻を高くしています。
シノは龍の背から降りると、集まった人々にペコリとお辞儀をしました。
「皆さん、ただいま戻りました! ……あの、この街の近くにも、ブラッシングが必要な子たちがいたら、ぜひ教えてくださいね」
その言葉に、街中が温かな歓声と笑い声に包まれました。
もはやシノを追い回す人はいません。
誰もが、彼女がもたらす「安らぎ」の空気に、自然と心を調律されてしまったからです。
数日後。
賑わう街の喧騒を離れ、シノは再び銀狼の背に揺られていました。
その手には、白紙の地図と、バルカンが新しく作ってくれた「携帯用お手入れキット」。
「ねえ、銀狼さん。アルビオンさんに聞いたんだけど、北の最果てには『氷の彫刻みたいなクリスタル・ペンギン』がいるんだって。西の砂漠には『砂遊びが大好きな巨大猫』がいるらしいし……」
『きゅうっ!』
頭の上のルナ・コットンが、賛成!とばかりに元気に跳ねます。
シノはまだ、このゲームの「勝ち方」も「効率的なレベル上げ」も知りません。
けれど、この広い世界のどこかに、まだ見ぬフワフワ、モフモフとした命が、誰かの優しい手を待っていることだけは知っています。
「よし、行こう。私たちの冒険は、まだまだこれからだもんね!」
青空の下、一人の少女と二匹の仲間たちが、新しい道へと足を踏み出します。
それは、世界で一番優しくて、一番温かな、終わらない物語のプロローグでした。
『もふの手のひら冒険録』 —— 完




