空飛ぶ絨毯ならぬ、空飛ぶフェニックス
「えっ……乗せてくれるの?」
シノが驚いて問いかけると、フェニックスは優しく翼を広げ、伏せの姿勢をとりました。
その背中は、まるで極上の羽毛布団を何枚も重ねたように厚く、柔らかいオレンジ色の光を放っています。
「銀狼さんも、ルナ・コットンも……よし、みんな乗ったね?」
シノがフェニックスの首筋に掴まると、力強い羽ばたきと共に、体がふわりと浮き上がりました。
「わぁぁ……! すごい、街が、火山が、あんなに小さく……!」
ぐんぐんと高度を上げるフェニックス。
VRMMO『エテノア・ファンタジア』が誇る圧倒的なグラフィックが、シノの視界を埋め尽くします。
下界の熱気はどこへやら、上空の風はひんやりとしていますが、フェニックスの背中からは絶え間なく「陽だまりの温かさ」が伝わってきて、寒さを全く感じさせません。
「……ふわふわで、あったかい。これ、世界で一番贅沢な乗り物かも」
シノはフェニックスの柔らかな羽に顔を埋め、銀狼をクッション代わりにしながら、空の旅を楽しみ始めました。
その頃、火山の麓では、掲示板の情報を頼りにシノを追いかけてきたプレイヤーたちが、呆然と空を見上げていました。
「おい、見ろよ……あれ、フェニックスだよな?」
「その背中に乗ってるの、もしかして……あの『モフモフの聖女』じゃないか!?」
遠ざかっていく伝説の霊鳥と、その背でリラックスして手を振っている(ように見える)シノの姿。
すぐさま、掲示板には最新のログが叩き込まれました。
【E-ファンタジア】攻略・雑談スレ Vol.145
1. 名無しの目撃者
【速報】聖女シノ、フェニックスを手懐けて空へ。
2. 名無しの魔術師
は? フェニックスって火山の隠しボスだろ? 倒したのか?
3. 名無しの目撃者
>>406 違う、ブラッシングして仲良くなってた。今、優雅に空の彼方へ消えていったぞ。
4. 名無しの重騎士
マジかよ……俺たちがあんなに苦労して火山を登ったのに、彼女は空路でショートカットか。
5. 名無しの情報屋
ちなみに、彼女が去った後のバルカンの工房に行ってみろ。頑固親父が「最高のブラシが打てた」って号泣しながら酒飲んでるぞ。
6. 名無しの魔術師
もうあの子、初心者名乗るのやめてくれないかな……(尊い)。
地上の騒ぎなど露知らず、シノは雲を突き抜けた「上の世界」に到達していました。
そこは、見渡す限りの雲海が広がり、夕陽に照らされてピンク色に輝く幻想的な世界。
「あ、見て! クジラ……?」
遠くの方で、雲を悠々と泳ぐ巨大な**「雲クジラ」**の群れが見えました。彼らが潮を吹くたびに、キラキラとした小さな虹が生まれます。
「フェニックスさん、あの子たちもモフモフしてるのかな?」
『ふふ、あの子たちは綿菓子のような手触りですよ。……おや、少しお疲れのようですね。アステリア島まで、少し眠りなさい』
フェニックスの心地よい声と、背中の温もり。
銀狼の落ち着いた鼓動を枕に、ルナ・コットンを抱きしめて、シノはうつらうつらと夢心地に。
「ゲームなのに……こんなに、幸せ……」
初心者のシノがたどり着いたのは、最強の座ではなく、誰も見たことのない最高の癒やし。
フェニックスの翼に守られながら、一行は伝説の「モフモフの楽園」へと、静かに、そして暖かく運ばれていくのでした。




