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転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第三章 王都ホワイト改革

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第33話 数で殴るのが一番

王都の華やかな目抜き通りを一本外れると、そこには太陽の光さえ届かない「仕様外の暗部」――スラム街が広がっていた。


「……リリア嬢。本気かい? 貴族の令嬢や王子が、護衛も連れずにこんな場所に足を踏み入れるなんて、正気の沙汰じゃないよ」


 アラン王子が、顔を引きつらせながら周囲を警戒する。

 一晩の魔法睡眠で絶好調ハイになっているとはいえ、彼の中に残る王族としての常識が悲鳴を上げているらしい。


「アラン顧問。ここは『危険地帯』じゃないわ。――『未開拓のブルーオーシャン』よ」


 私は、汚れの目立たない作業用のドレスの裾を翻し、迷うことなく路地裏へと進んだ。

 私の目には、この街の惨状が「最適化されていない非効率なシステム」として映っている。

 汚水が垂れ流しの水路。魔力不足で火も焚けず、寒さに震える人々。これは致命的なインフラの欠陥バグだ。


「リリア様! あそこの物陰に、悪い目をした男たちが……!」


 ミーナが身構える。彼女の獣人特有の耳が不穏な足音を捉えたようだ。

 暗がりから、棍棒を手にした数人のならず者たちが、ニヤニヤと笑いながら姿を現した。


「へっへっへ……。迷子かよ、お貴族様。その綺麗な服と、隣の可愛らしいワンちゃんを置いていってもらおうか――」


 ならず者がクロに手を伸ばそうとした瞬間。

 私の肩の上で、クロが面倒くさそうに片目を開けた。


「…………。……。おい、お前。こいつら、『デバッグ(排除)』していいか?」


「ダメよクロ。暴力はコストが高いわ。――アラン顧問、例の『試供品プロダクト』をデプロイして」


「……了解だよ、ボス。……さあ、君たち。命が惜しければ、まずはこれを食べたまえ」


 アランが馬車の荷台から持ち出したのは、私が昨夜の「残業」で組み上げた**【魔導式・高速自動炊き出し機:プロトタイプ・ミカエル】**だ。


「あ?なんだそれは」


 ならず者のひとりがそういうが、私たちを、襲うよりも目の前の見たことないものへの好奇心が勝っていた。

カチッ、とスイッチを入れる。

 瞬間、周囲に立ち込めていた不快な臭気が、魔法による空気清浄回路で一掃され、代わりに香ばしい焼き肉とスープの匂いが爆発的に広がった。


「な……なんだ!? この匂いは……!?」

「腹が……腹が鳴って、力が入らねぇ……!」


 ならず者たちの戦意が、一瞬で「食欲」という名のパッチによって上書きされた。

 私は屋台の前に立ち、最高に営業的な微笑みを浮かべた。


「皆さん、ご安心を。本日はルベリット・ホールディングスによる『次世代エネルギー・ソリューション』の無料体験会ですわ。この魔導コンロは、路地裏に落ちている石ころに微かな魔力を込めるだけで、一時間で百人分の食事を作れます。……さあ、並んで!」


 ――そこからは、まさに「暴動」だった。


 ならず者も、飢えた子供も、震える老人も、一斉に私の屋台に殺到した。

 アランが給仕を担当し、ミーナが麦粥を配る。

 そしてクロは、屋台の屋根で「……ふん。俺の覇気が『客寄せパンダ』にされるとはな」と毒づきながら、その圧倒的な存在感セキュリティで混乱を防いでいる。


「温かい……! こんなスープ、生まれて初めてだ!」

「聖女様……! ルベリットの聖女様が、俺たちを見捨てなかったんだ!」


 住民たちの目に、信仰に近い熱が宿る。

 ……また聖女。まあいいわ、顧客満足度(CS)が上がっている証拠よ。


「リリア嬢。……君、これじゃ赤字だよ。タダで配ってるから無断商売法には触れないだろうが……材料費も魔導具の維持費も、全部自腹じゃないか。何を企んでいるんだい?」


 アランが、具材を盛り付けながら小声で尋ねてきた。


「アラン王子。ビジネスには『顧客獲得単価(CAC)』という概念があるの。……今、私はパン数千個のコストで、王都の三割を占める下層住民の『支持』という最強のサーバー(基盤)を手に入れているのよ」


 私は広場を見渡した。

 魔導師ギルドは、高価な魔石を貴族に売ることで利益を得ている。

 だが、私は違う。

 安価な魔導具を平民に普及させ、彼らの生活インフラを握る。そうすれば、いずれ王都全体の流通トラフィックは、魔導師ギルドではなく、ルベリットの手の平で動くことになる。


「……つまり、君は王都の『底』から、既存のシステムを書き換えようとしているんだね?」


「その通りよ。既得権益という名の『レガシーシステム』を倒すには、ユーザーの数で殴るのが一番効率的なの」


 その時。

 広場の入り口に、数人の武装した男たちが現れた。

 ヴァルメト伯爵の息がかかった、この地区の「元締め」だ。彼らは、恐らく私が勝手に住民の心を掴んでいることに危機感を覚えたらしい。


「おい! 誰の許可を得て、ここで商売してやがる! ここは俺たちの――」


 言いかけた男の足元に、クロが屋根から飛び降りた。

 仔犬の姿のまま。けれど、その金色の瞳に宿る魔圧プレッシャーは、広場全体を氷点下へと叩き落とした。


「…………。……。……おい、お前ら。……俺の『上司』のプレゼンを邪魔する不届き者は、どいつだ?」


 クロの低い声が響く。

 男たちは、悲鳴を上げる暇もなく、その圧倒的な格の違いに腰を抜かし、這うようにして逃げ去っていった。


「ナイス・セキュリティ、クロ」


「……ふん。あとでブラッシング二時間コースだぞ」


 私は満足げに頷くと、再び住民たちに向き直った。


「さあ、皆さん! お代わりはたくさんありますわ! ただし、条件が一つ。……この美味しいご飯を、近隣の方々にも伝えてくださるかしら? ――『ルベリットの光は、誰にも消せない』とね」


 私の宣言と共に、スラム街に歓喜の声が爆発した。


 王都の「外堀」は、一夜にして埋められた。

 貴族には技術で、平民には胃袋で。

 王都全体の「デバッグ(征服)」は、もはや止めようのない潮流メインストリームへと変わりつつあった。


「(……よし、これでテストユーザーの確保は完了。……次は、いよいよ魔導師ギルドの本丸――産業博覧会での『公開処刑』ね)」

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