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転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第三章 王都ホワイト改革

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第32話 挨拶回り

午前九時。


 王都の高級住宅街に、ルベリット家王都本店の重厚な門が開く音が響いた。


「よし。スタッフのコンディションはオールグリーンね。ミーナ、アラン顧問。準備はいいかしら?」


 私が振り返ると、そこには昨夜の「四時間急速睡眠魔法」によって、細胞レベルで活性化された二人が立っていた。


「はいっ、お嬢様! 今の私なら、王都中の雑草を素手で根絶やしにできる気がします!」

「リリア嬢……。怖いよ。脳が冴え渡りすぎて、視界に流れる情報の処理速度が追いつかないんだ。……でも、身体は羽が生えたように軽い。これが……これがルベリット流の『健康』なのかい?」


 ミーナ(十四歳・獣人メイド)は瞳をらんらんと輝かせ、アラン王子(十九歳・対外戦略顧問)は、爽やかすぎる笑顔の裏で、拭いきれない「狂気」を滲ませている。……うん、完璧な仕上がりね。


「いい顔よ。……さて、今日のアジェンダは『近隣貴族への挨拶回り』。……いいえ、正確には『王都市場のストレステスト』よ。私たちの新技術が、この保守的な街でどれだけの反発バグを生むか、実際に計測しに行くわ」


「……ふん。俺の毛並みを見せびらかす絶好の機会だな。……おいお前、あの派手な門の家に行くのか?」


 私の肩で欠伸をしたクロが、隣接する広大な屋敷を指差した。

 そこは、王都でも指折りの権力を持つ『ヴァルメト伯爵家』の別邸だ。彼らは代々、王宮の魔導具管理を一手に引き受けている、いわば「既得権益」の象徴のような家系である。


「ターゲット選定は完璧ね。……行くわよ」





       ★






 ヴァルメト伯爵邸の門を叩くと、出てきたのは鼻筋の通った、いかにも「プライドの塊」といった老執事だった。

彼は私のボロ……をリフォームしてピカピカにしたドレスと、アラン王子の顔を見るなり、目を見開いた。


「これは……アラン殿下!? な、なぜこのような場所に……。それに、そちらの幼女は……」


「アラン殿下は、我がルベリット・ホールディングスの外部顧問として同席しているだけよ。……私はリリア・ルベリット。お隣に引っ越してきたので、挨拶(営業)に伺いましたわ」


「ルベリット……? ああ、あの没落した……」


 老執事の目が、一瞬で「ゴミを見る目」に変わった。……分かりやすいわね。この世界の評価基準は、いまだに『家柄ブランド』という名の古いバージョンに縛られているらしい。


 私たちは応接室に通された。

 現れたのは、これまた肥え太った中年男性――ヴァルメト伯爵だった。


「アラン殿下、お久しぶりですな。……して、そちらの小娘が、一晩で幽霊屋敷を建て替えたという噂の主ですかな? ……ふん、下品な魔法だ。建築ギルドを通さず、伝統を無視した魔法建築など、王都の景観を汚すだけですぞ」


「伯爵、言葉を慎んでください。彼女は――」


 アランが割って入ろうとするが、私は手で制した。

 感情的な議論は時間の無駄だ。私は部屋の隅にある「あるもの」に目を留めた。


 それは、伯爵が自慢げに飾っている、王都製の最新型『魔導加湿器』だ。

 ……。

 …………。


(……ひどいわね。マナの変換効率が悪いせいで、不快な高周波ノイズが出ているわ。それに、水の粒子が粗すぎて、壁紙が結露バグし始めている。典型的な『仕様欠陥品』よ)


「伯爵。その加湿器……かなり『性能低下』していますわね。使用者の呼吸器にも悪影響を及ぼす、致命的なセキュリティホールがあるわ」


「な……何を言うか! これは建築ギルドが誇る、金貨十枚もした最高級品だぞ!」


「最高級品、ですか。……ミーナ、カイルから預かってきた『試作機』を出して」


「はいっ、お嬢様!」


 ミーナが、超高速の動きでカバンから小さな手のひらサイズの石板を取り出した。

 私が昨夜、屋敷のリフォームのついでに『超音波振動アルゴリズム』を上書きした、簡易加湿ユニットだ。


「……起動ブート


 パチリ、と指を鳴らす。

 瞬間、部屋の空気が一変した。

 

 音もなく、目に見えないほど微細な霧が空間を満たす。

 伯爵の加湿器が「ブォォォン」と騒音を立てていたのに対し、私の製品は完全な静音。そして、数秒で部屋の湿度が最適値(四五%)に固定された。


「……な、なんだ、この清々しい空気は……!? 喘息気味だった私の喉が、急に……楽に……」


「これが『ユーザー体験』の最適化よ、伯爵。……ついでに、その古い加湿器の『デバッグ(修理)』もしてあげましょうか?」


 私は伯爵の返事を待たず、彼の高価な魔導具に指先で触れた。

 

(コマンド:構造解析。不要な抵抗回路を削除。魔力供給ラインをバイパス。……実行コミット!)


 シュン……。

 騒音が消え、伯爵の加湿器から、先ほどとは比べ物にならないほど清浄な霧が溢れ出した。


「な……ななな……ッ!! 触れただけで、王宮魔導師でも三日はかかる調整を終わらせただと……!?」


「調整ではありません。不必要なコードを削っただけです。……伯爵。これが、ルベリットの『仕事クオリティ』よ。……さて、挨拶は済みましたわね」


 私は呆然とする伯爵を放置し、アラン王子を促して立ち上がった。


「アラン顧問、次の『見込みターゲット』のリストを確認して。次は……魔導士ギルドと繋がりの深い公爵家かしら?」


「…………リリア嬢。……君、今の数分で、王都の魔導具市場のシェアを一〇%はひっくり返した自覚、ある?」


「あら。不具合のあるシステムを直してあげたんだから、保守費用を請求したいくらいだわ」


「…………きさま…………本当にいつか…………刺されるぞ…………」


 肩の上でクロが呆れたように尻尾を振った。

 だが、そのクロの姿を見たヴァルメト伯爵の護衛騎士たちが、先ほどからガタガタと震えながら膝をついていることに、私は気づかないふりをした。

 

 挨拶回りという名の「侵攻」は、まだ始まったばかり。

 

 一晩で屋敷を建て替え、触れるだけで最新魔導具をアップデートする八歳の幼女。

 彼女の噂は、この日の昼過ぎには王都中の貴族たちの間に「恐怖」と「期待」として駆け巡ることになる。


「(……よし、まずは近隣の『初期ユーザー』の確保は完了ね。……次は、王都のインフラ、上下水道のシステム不備をデバッグしに行きましょうか!)」

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