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転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第三章 王都ホワイト改革

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第30話 王都グラン・ゼリア

宿場町『テッポ』を出発してから二日。


 ついに前方の地平線に、王国の心臓部――王都『グラン・ゼリア』の巨大な白亜の壁が見えてきた。


「……着いたわね。わが社の……いえ、わが領地の命運を懸けた、第一期・王都進出プロジェクトの開始よ」


 私は馬車の窓から、活気あふれる王都の景色を眺めていた。

 だが、私の目は観光客のそれではない。街の構造、人の流れ、魔力の循環……すべてを「ビジネスチャンス」としてスキャンしている。


「……うう。……ようやく、……ようやく着いた。……この二日間、馬車の中で一秒も休めないなんて……僕の人生で一番濃密な(地獄のような)旅だったよ……」


 向かいの座席では、アラン王子が干し肉のような顔色でぐったりとしていた。

 移動中の二日間、私は睡眠時間以外彼に休む暇を与えず、王都での「ロビー活動」のリストアップと、魔導師ギルドへの「プレゼン資料」の添削を叩き込み続けていた。


「アラン顧問。顔色が悪いわよ。……王都に入る前に、ちゃんと『笑顔のプリセット』を読み込んでおいて。あなたはわが領地の『顔』なんだから」


「……無理を言わないでくれ。……君が夜な夜な馬車の床板を剥がして『サスペンションの最適化』とか言って魔法をブチ込んでいたせいで、ろくな休憩もできなかったんだよ……」


 失礼ね。おかげでこの馬車は今、石畳の振動を九九%カットし、空気抵抗を極限まで減らした『ルベリット・カスタム:ハイエンド・エディション』へと進化しているのだ。

 見た目はただの古い馬車だが、中身は王族の専用車をも凌駕する「魔導の結晶オーパーツ」である。


 馬車が王都の正門へと差し掛かる。

 そこには、入城を待つ貴族たちの豪華な馬車が列をなしていた。

 金糸をふんだんに使い、宝石を散りばめた、いかにも「見栄の塊」といった装飾過多な車両たち。

 そんな中、ルベリット家の紋章をつけた、見た目だけは控えめな私たちの馬車は、周囲から格好の「嘲笑の的」になっていた。


「おやおや、見ろよ。あれはルベリット男爵家の紋章じゃないか? あんなボロ馬車で王都へ来るなんて、恥という概念を知らないのかね」

「借金を返すために、娘を売りにきたのではないか? クスクス……」


 隣に並んだ公爵家の馬車から、扇子で口元を隠した貴婦人たちの嘲笑が漏れる。

 

「(……あ、これ。典型的な『旧勢力によるマウンティング』ね。……非効率な感情にリソースを割くなんて、時間の無駄だわ)」


 私は無表情のまま、膝の上で丸まっていたクロをポンと叩いた。


「クロ。……『広報部長』としての仕事の時間よ。……あと、周囲のノイズがうるさいから、少しだけ『圧倒的な技術の差』を見せつけてあげて」


「…………ふん。アクビが出そうだな。……おいお前、あの派手な馬車を引き連れている馬の足を、少しだけ止めてやればいいのか?」


「いいえ。そんな嫌がらせは二流よ。――私たちは、彼らが『見ることさえ叶わない次元』を行きましょう」


 私は馬車のコントロール・パネル(魔導板)を操作した。

 

(システム起動。重力軽減アンチ・グラビティ回路、オンライン。推進魔力、一〇%に固定――デプロイ!)


 シュゥゥゥン……!!


 ルベリット家の馬車が、かすかな電子音のような音を発した。

 次の瞬間、私たちの馬車は地面から数センチ浮上し、そのまま摩擦ゼロの滑らかさで、渋滞する馬車列の横を「音もなく」すり抜けていった。


「…………えっ?」

「な、ななな……何だ!? 今、あの馬車、浮いて……!?」


 嘲笑っていた貴族たちが、窓から身を乗り出して絶叫する。

 

 馬たちがパニックを起こすこともない。なぜなら、私の魔法が騒音を完全に遮断ミュートしているからだ。

 私たちは、王都の正門警備兵の目の前でピタリと停止した。

 

「……入城許可証アクセス・キーを。あ、アラン殿下。お願いします」


「……は、はい。……。……おい、開けてくれ。私は第三王子、アランだ」


 アランが魂の抜けた顔で窓から王家の印章を差し出す。

 警備兵たちは、浮いている馬車と、その中に座る死相の出た王子、そしてその隣で笑顔を振りまく八歳の幼女を見て、完全に思考停止した。


「……あ、アラン殿下!? え、あの、この浮遊している乗り物は……!?」


「いいから通してくれ……。……これ以上の説明は、私の脳がもたないんだ……」


 門が、かつてないスピードで開かれた。

 私たちは、王都のメインストリートを、まるで見えないレールの上を滑るように進んでいく。

 沿道の平民たちも、音もなく「飛行」するように進む馬車を見て、指を差してどよめき声を上げている。


「お、お嬢様……。さすがに目立ちすぎじゃないですか……?」


 ミーナが冷や汗を流しながら窓を少し閉めた。

 

「何を言っているの、ミーナ。これが『先行投資マーケティング』よ。王都の連中に、『ルベリットには未知の技術がある』と一瞬で印象づける。広告費ゼロでこれだけのインパクトを与えられたんだから、費用対効果は最高だわ」


「…………(お嬢様、やっぱり悪徳商人の顔になってる……)」


 馬車は、王都におけるルベリット家の別邸へと向かった。

 数年間放置されていたその屋敷は、蔦に覆われ、幽霊屋敷のような体をなしていた。


「……ひどい有様ね。……まさに管理不足のサーバー室みたい」


 私は馬車を降り、屋敷の荒れ果てた庭に立った。

 

「よし。……ミーナ、ハンスさんに連絡して、追加の清掃部隊を要請して。……アラン顧問、あなたは今夜中に、王宮への『帰還報告』と『博覧会への出展許可申請』を終わらせて。……私は、これから夜明けまでの八時間、この屋敷の『システム再構築(大掃除魔法)』に入るわ」


「…………。……。……ボス。……今、何時か知っているかい? 夕方の六時だよ。……三日間馬車に揺られた後の僕に、……さらに不眠不休を強いるのかい……?」


 アラン王子が膝から崩れ落ちた。

 

「何を言っているの。私は三時間寝ればフルチャージよ? さあ、仕事(残業)の時間よ!!」


「…………きさま…………本当に地獄に落ちるぞ…………(でも肉球触らせてくれるなら頑張る)…………」


 膝の上で、クロが呆れたように尻尾を振った。

 

 王都グラン・ゼリア。

 伝統と権威に縛られたこの古びた都市が、一人の社畜幼女の「デバッグ」によって、根底から書き換えられる夜が、今始まった。


「(まずは、この屋敷を『ルベリット王都支社』として登記し直さなきゃね。……ふふ、楽しくなってきたわ!)」

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