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転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第三章 王都ホワイト改革

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第28話 破壊的イノベーションともふもふ広報活動

 午前八時。

 

 パチリ、と。私の目は一秒の狂いもなく開いた。

 三時間。深い、深い眠りによって、私の細胞は完全に再起動リブートされていた。


「……よし。コンディション、一〇〇%。――ミーナ、起きなさい! 始業の時間よ!! 街の広場に『ポップアップストア』を設営し、営業活動フィールドワークを開始するわよ!!」


「…………ひゃ、ひゃいぃぃぃ!? 定時、定時です!? 納期は!?」


 悲鳴を上げながら跳び起きたミーナ。彼女の顔は、一晩の激務でボロボロだが、主君の命令に従う忠誠心(と恐怖)だけで動いている。

 アラン王子も、顔色こそ土色だが、長年の王宮での処世術で身につけた「笑顔の仮面」を装着し、ふらふらと立ち上がった。


 寒さに震え、絶望的な朝を迎えた『テッポ』の住民たちが目にしたのは。

 朝の光を浴びた中央広場で、一台の屋台――即席で作られた「暖かさ」を売る店と。

 その中心で、一国の第三王子と獣人メイドを従え、漆黒の厄災獣をマスコットにして、最高に爽やかな笑顔を振りまく八歳の幼女CEOの姿だった。


「さあ、皆さん! 冬のバグ(寒さ)を修正する、最新のソリューションをご案内いたしますわ!」


 ギルドの独占という名の「古いシステム」が、リリアという名の「破壊者」によって上書きされる瞬間が、ついに訪れた。









 午前八時三十分。宿場町『テッポ』の中央広場。

 凍てつく朝の空気の中、住民たちが寒さに肩を震わせながら家を出ると、そこには昨夜までは存在しなかった「異様な光景」が広がっていた。


 広場の中央に陣取った一台の簡易屋台。

 その周囲だけが、まるで春の陽だまりのように温かな、柔らかなオレンジ色の光に包まれている。


「――さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 冬のバグ(寒さ)を劇的に改善する、ルベリット式最新ソリューションの体験会ですよ!」


 屋台の上に立ち、八歳の愛らしい笑顔を振りまいているのは、我らがCEOリリアだ。

 その隣には、目の下に深いクマを湛えながらも、王族特有の完璧な営業スマイルでチラシを配るアラン王子。そして、一晩の激務でボロボロになりながらも「お嬢様のためなら……!」と必死に製品を運ぶメイドのミーナがいる。


「な、なんだありゃあ……。あの小さな石板、火も使っていないのに、あんなに暖かいのか?」

「おい見ろよ、あのチラシ。『魔石一個で一週間、家全体が常夏に』だってよ。嘘に決まってるだろう、ギルドの魔石なら一晩で消えちまうぞ」


 住民たちが遠巻きにざわつき始める。彼らはギルドの「魔石独占」によって、魔法というものに強い不信感と諦めを抱いていた。

 私は、その心理的障壁(心理的バグ)を即座に感知し、次のフェーズへ移行した。


「アラン顧問、デモンストレーションを開始して」


「……了解だよ、ボス。……さあ、皆さん! 疑う前に、まずはこの『暖かさ』を無料で体験してください! 今なら、ルベリット特製ヒーターを一週間限定で『無料レンタル(フリーミアム)』いたします!」


「無料!? 魔法の道具をか!?」


 住民たちが一斉にどよめく。

 私は、ミーナが運んできた『バージョン1.0』の石板の一枚を起動した。

 昨夜、私が八時間かけてパッチを当てた、超高効率・熱変換アルゴリズムが火を吹く。いや、火は出ない。空気中のマナを効率よく振動させ、熱だけを抽出するのだ。


「いいですか、皆さん。ギルドの旧式ヒーターは、マナの九〇%を無駄に排熱ロスしていました。いわゆる『クソコード』です。ですが、このルベリット式は、マナの流動を完全に最適化デバッグ済み! 落ちているゴミ同然の割れた魔石でも、これにセットすれば三日は持ちます!」


 私が石板に小さな魔石の欠片を放り込むと、石板はポウッと明るく輝き、周囲三メートルを一瞬で春のような温度に変えた。

 住民たちが恐る恐る近づき、その暖かさに触れた瞬間――彼らの顔から、絶望の色が消えた。


「温かい……! なんだこれ、ギルドの十倍は暖かいぞ!」

「しかも魔石が全然減らねえ! 奇跡だ、ルベリットの聖女様だ!!」


 ……また聖女。まあいいわ、ブランディングとしては悪くない。


 だが、まだ「恐怖心」を持っている者もいる。魔法具は暴走する、爆発するというギルドの刷り込み(デマ)だ。

 そこで私は、最後の切りアセットを投入した。


「皆さん、ご安心を! このヒーターは、伝説の厄災獣様も公認の『安全性』を誇りますわ! ――クロ、出番よ」


 屋台のカウンターで丸まっていたクロが、面倒くさそうに立ち上がった。

 漆黒の毛並み、金色の瞳。本来なら一国を滅ぼす災厄の狼だが、今の彼は私の『魔導自動ブラッシング機』の調整によって、最高にフワフワで、あざとい仔犬の姿をしている。


「……ふん。広報担当パンフレットとしての仕事か。……おい、お前ら。この道具は俺の魔力特性に合わせて調整されている。爆発などせん。……ほら、撫でて確かめてみろ」


 クロが屋台の縁に前足をかけ、あざとく首を傾げた。

 住民たちが、ひっ、と息を呑む。だが、好奇心が恐怖を上回った。一人の子供が、恐る恐るクロの頭に触れる。


「……わあ、柔らかい……! それに、すっごく温かいよ!」


「だろう? 俺を撫でられるのは、このヒーターの契約者だけだ。……さあ、並べ並べ。伝説の毛並みが、お前らの荒んだ心をデバッグ(癒)してやる」


「「「お、俺も撫でさせてくれ!!」」」「「「ヒーター貸してくれ!!」」」


 ――爆発。

 広報部長クロの圧倒的な「もふもふ力(営業力)」により、広場は一瞬でルベリット派の熱狂に包まれた。

 アラン王子が配る手書きの契約書に、住民たちが次々とサインしていく。


「一〇〇台、完売ソールドアウトまであと五分ね。……ミーナ、在庫の搬出を急いで!」

「は、はいぃ! お嬢様、商売って、こんなに恐ろしい勢いで動くものなんですね……!」


 アラン王子が、魂の抜けた顔で私を見た。

「リリア嬢……。君は、王族と伝説の魔獣を『客寄せパンダ』に使うことに、一ミリの躊躇もないんだね……」


「失礼ね。適材適所よ。……それにアラン、見て。あそこの角から、ようやく『競合他社』のお出ましよ」


 広場の入り口。

 豪華な法衣を着た、顔を真っ赤にした男が、十数人の武装した衛兵を連れて現れた。

 『王都魔導師ギルド・テッポ出張所』の所長、マルファスだ。


「ええい、どけ! どかんか、この愚民どもめ! 許可なく魔導具を販売する不届き者はどこのどいつだ!!」


 マルファスが杖を振り上げ、魔力を込めた。

 住民たちが悲鳴を上げて散っていく。

 私は屋台の上で、冷徹な営業スマイルをさらに深めた。


「あら。宿場町のエネルギー独占企業――『バグの塊』さんが、わざわざ営業妨害をしに来てくださったわね」


「お、お嬢様……。ギルドの所長です! 捕まったら王都の地下牢ですよ!」


 ミーナが震えるが、私は動じない。


「アラン顧問。……そろそろ、あなたの『法的特権(王子としての権限)』の使いどころよ。……クロ、セキュリティ・モードの準備を」


「……ふん。ようやくあの大男をデバッグできるのか。……腕が鳴るな」


 クロが仔犬の姿のまま、低い唸り声を上げる。

 

 一晩の徹夜で作り上げた「破壊的技術」と、三時間睡眠で得た「最強のスタッフ」。


 既得権益という名の旧式システムを、リリアが根底から上書き(オーバーライド)する時間がやってきた。


「(さあ、まずは所長さんの『不当利得』を、全住民の前で公開デバッグしてあげましょうか)」

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