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転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第三章 王都ホワイト改革

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第27話 深夜のキックオフ

 王都へ続く街道の重要拠点、宿場町『テッポ』。


 本来ならば、この街は街道を行き交う旅人たちの活気と、軒を連ねる酒場の笑い声、そして夜を彩る魔導灯の光で溢れているはずの場所だ。


 だが、私たちが乗る王室紋章入りの馬車がその門をくぐったのは、夜の八時ちょうど。


予定よりも少し遅れての到着だったが、窓の外に広がっていたのは、歓迎の喧騒ではなく、死に体となったオフィスの深夜残業時のような、どんよりとした「沈黙」と「極寒」だった。


「……寒い。リリア嬢、この街、様子がおかしいよ。街灯すら消えているし、宿屋の煙突からも煙が出ていない。まるでゴーストタウンだ」


 アラン王子が身を震わせながら、豪華な毛皮の外套にさらに深く潜り込む。

 馬車の中は、私が一ヶ月の特訓で編み出した『自動断熱魔法』によって一定の温度に保たれている。


だが、一歩外に出ればそこは気温マイナスの世界。

馬車の隙間から入り込む冷気が、アランの吐息を白く染めていた。


「アラン顧問。これは気象のバグじゃないわね。――『経済の不備』よ」


 私は窓に指を当て、外の空気に混じる「マナの濃度」をスキャンした。


 ……なるほど。

空気中のマナが異常に希薄だ。

いや、正確には「マナを熱に変えるための媒体」が、この街から組織的に排除されている。


 ようやく見つけた一軒の宿屋『北風の止まり木亭』。

 中に入ると、主人は暖炉に火も入れず、厚手の毛布を何枚も被ってカウンターに座り込んでいた。

彼は私たちの身なり――特にアラン王子の隠しきれない気品を見て、申し訳なさそうに、そして絶望を顔に張り付かせて頭を下げた。


「お、お嬢様方……。ようこそお越しくださいました。……ですが、お泊まりいただくには条件がございます。……現在、暖房用の魔石代として、一部屋につき別途『金貨一枚』を申し受けております……」


「金貨一枚!? ぼったくりもいいところだ! それだけで王都の高級ホテルに一週間泊まれるぞ!」


 アランが絶叫する。金貨一枚。この世界の平民が、必死に働いてようやく一ヶ月に稼げるかどうかの大金だ。それを一晩の暖房代に?


「店主さん。……理由ソースを聞かせてくれるかしら?」


 私がカウンターに身を乗り出すと、主人は震える声で話し始めた。


 原因は、この街を実質的に支配している『王都魔導師ギルド・テッポ出張所』の横暴だった。


 彼らは冬の訪れと共に、流通する魔石の全量を買い占めた。さらに「魔石の品質低下により供給が制限されている」という虚偽のアナウンスを行い、市場に出す魔石の量を極限まで絞り込んだのだ。

 結果、魔石の価格は平時の十倍以上に跳ね上がった。


「ギルドの連中は、自分たちの倉庫に山のような魔石を積み上げたまま、我々が飢えと寒さで全財産を差し出すのを笑いながら待っているのです……。金のない平民たちは、すでに家を捨て、暖かい南へ逃げ出していますよ……」


「……『不当な価格吊り上げ』と『在庫操作』。典型的な既得権益側の暴走ね」


 時刻は夜の九時に差しかかろうとしていた。

 前世の私なら、深夜のメンテナンス作業に向けて一番気合を入れる時間帯だ。

 私は宿の主人が提供してくれた薄いお茶を一口すすり、冷えた指先をパチンと鳴らした。


「リリア嬢、どうするんだい? 悔しいけれど、ここは大人しく金を払って、明日にはこの街を出て王都へ向かおう。君の体が冷えて、博覧会エキスポの準備に響くのが一番のリスクだ」


「いいえ、アラン。……方針ストラテジーの変更よ。こんな非効率でバグだらけの市場の歪みを放置して通り過ぎるなんて、エンジニアのプライドが許さないわ。それに、寝床が寒いと私の三時間の『急速充電(睡眠)』の効率が三五%は低下する。――それは、わが社(領地)にとって容認できない機会損失よ」


 私は、馬車の荷物入れに積んでいた頑丈な「木箱」を運んでくるようミーナに命じた。

 中には、領地でカイルと量産テストを行っていた、何の特徴もない『汎用魔導基板』の束が百枚。

今回カイルとセシルはお留守番だ。二人には、やってもらうことが領地に沢山ありすぎた。

 

「カイルをお留守番させたのは、領地の生産ラインを保守させる必要があったから。……でも、中身ソフトウェアの書き換えなら、私一人で十分よ。アラン顧問、ミーナ。今から『午前五時』までの八時間――不眠不休の深夜残業オーバータイムを命じます!」


「「……えっ?」」


 二人の顔から一瞬で血の気が引いた。だが、私の瞳には、納期前夜のデバッグ作業の時のような、冷徹な情熱が灯っていた。


「いい、アラン。あなたはこの石板が『いかに低燃費で、いかに安全か』を説明するチラシ(製品仕様書)を、手書きで百枚量産して。挿絵も入れること。ミーナ、あなたは私がパッチを当てた石板を、順次『起動テスト(品質管理)』に回して。……タイムリミットは八時間後の午前五時よ。朝一番、街の人が起きた瞬間に、ギルドのシェアを根こそぎ奪い取るわ!」


「お、お嬢様……! 私たち、馬車に揺られてもうヘトヘトなんですけどぉ!」


ミーナが訴えてくるが、しょうがない。ここは頑張り時だ。


「座ってただけでしょ。……クロ、あんたはギルドの倉庫に『不正アクセス』して。奴らの保有魔石の種類、不純物濃度、および周波数特性を特定してきなさい。相手の規格に合わせてこちらの熱変換アルゴリズムを『逆位相アンチ』に設定するわ」


「…………。……ふん。お前に捕まったのが、あいつらの運の尽きだな。……俺のブラッシング一回分で済ませてやるよ」


 クロが闇の中に溶け込むように消える。

 

 ――そして、地獄の八時間が始まった。


「リリア様ぁぁ、無理ですぅぅ」


そんなミーナの断末魔をスタートの合図として夜通し作業が始まった。






 

 深夜零時。


 宿の一室を臨時の「開発室」に変え、私は魔導石板の一枚一枚に指を当てていた。

 一ヶ月間の不眠不休の特訓で得た、私の魔力。それを極細の糸に加工し、石板に刻まれた標準的なプログラムを上書き(オーバーライド)していく。

 

(変数:消費電力。設定:デフォルトの一〇分の一。熱効率:理論限界値まで上昇。安全装置:魔力暴走時の強制シャットダウン回路を追加――実行)


 私の回路が熱を持ち、指先がピリピリと震える。だが、この「負荷」こそが、私が生きている実感を与えてくれる。

 その横では、アラン王子が「……指が……羽ペンの形に固まって動かない……。これ、王子に対する虐待(コンプライアンス違反)じゃないかな……」とうわ言を漏らしながら、必死に製品チラシを書き続けていた。

 

 深夜二時。

 ミーナが、完成した石板の起動テストを繰り返す。

「……テスト番号四十八、正常稼働……。テスト番号四十九……。……あ、お嬢様、この石板、なんだか少しだけ暖かい光の色が青いです……」

「それは魔力の波長がズレてるわ。差し戻し(リジェクト)よ。すぐ直すから寄越しなさい」

「ひ、ひぇぇぇ、差し戻し入りまーす!!」


 深夜三時。

 クロが戻ってきた。

「お前。特定したぞ。奴らの魔石は『火属性・中不純物』の二級品だ。意図的に出力を抑えて燃焼時間を稼ぐように加工してある」

「なるほど。セコい小細工バグね。……だったらこちらは、『大気中のマナを燃料に、手持ちの魔石は触媒としてのみ使う』という、圧倒的な低燃費パッチで対抗するわ。……これなら、一粒のゴミ魔石で一週間は家中が暖かくなる」

「……お前、それギルドからすれば、毒薬以上の嫌がらせだぞ」

「いいえ、これは『市場の健全化』よ」


 午前五時。

 東の空が、わずかに白み始めた頃。

 宿のロビーには、百枚の『ルベリット式・省エネヒーター:バージョン1.0』と、山積みの手書きチラシが揃っていた。


「……ふぅ。リリース・準備完了ね。アラン、ミーナ。お疲れ様。……私はこれから『三時間』、急速充電(睡眠)に入るわ。……二人も、寝ていいわよ」


「……あ、ありがとう……。リリア嬢…………君は、……本当の……悪魔ボスだ…………」


 アランはそう言い残し、ペンを持ったまま床に崩れ落ち、一瞬で高いいびきをかき始めた。

 

 私は、自分が書き換えた完璧な成果物を眺め、満足げに微笑んだ。

 石板の中の魔法式は、どこまでも美しく、淀みがない。

 私はそのままベッドに倒れ込み、脳の機能を一時停止サスペンドさせた。

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