表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第三章 王都ホワイト改革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

第26話 移動オフィスともふもふ福利厚生

 ガタゴトと一定のリズムで揺れる、王室紋章入りの豪華な馬車。

 本来なら、ふかふかのクッションに身を委ね、窓の外を流れるのどかな景色を眺めながら、優雅に紅茶を楽しむための空間だ。

 だが、現在この馬車の中身は、王都の人間が見れば卒倒しかねない「異常な空間」と化していた。


「……アラン顧問。そっちの『市場調査資料』の読み込みは終わったかしら? 王都の魔導師ギルドの派閥図と、主要商会の直近三年の決算報告書。あ、それから今回出展する博覧会の競合他社(他領)の製品リストも忘れずにね」


「……リリア嬢。……いや、ボス。……一つ聞いてもいいかな。なぜ僕は、王族用の最高級馬車の中で、膝に重たい木箱を置いて、ひたすらインクを消費する作業に従事しているんだい? これ、世間では『誘拐』とか『強制労働』って呼ぶんじゃないかな」


 第三王子アランが、充血した目で私を振り返る。

 彼の前には、私が魔法で馬車の振動を完全に相殺スタビライズして固定した特製デスクが鎮座し、その上には山のような書類が積み上がっていた。


「何を言っているの。移動時間はビジネスマンに取って大事な時間よ。これを有効活用マルチタスクしてこそ、一流のビジネスパーソンでしょう? 王都までの三日間、何もしないなんてリソースの無駄遣いにもほどがあるわ」


「三日間……。……ああ、絶望的な響きだ。せめてこの馬車の、王族にしか許されないはずの『最高級の乗り心地』を満喫させてくれないか……」


「満喫してるじゃない。振動がないから、ペン先がぶれずに書類が書ける。これ以上の贅沢(福利厚生)がどこにあるのよ」


 私はそう言い放つと、自分の手元の羊皮紙に、新製品『魔導多機能コンロ:バージョン0.9』の設計図を猛烈な勢いで描き込んでいった。


 今回の王都行きは、魔導士ギルド総本部から招待された『王都魔導産業博覧会』への出展が目的だ。

 だが、私にとっては単なる展示会ではない。

 これは、わがルベリット領の技術を王国中に知らしめ、圧倒的なシェアを奪い取るための「戦略的マーケティング活動」なのだ。


 ふと、視線を足元に落とすと。

 そこには、馬車の絶妙な微振動に身を任せ、床で完全に溶けている漆黒の塊があった。


「…………。…………。ふん…………この振動…………悪くない…………。まるでお前が、俺を二十四時間体制で『ブラッシング』してくれているような心地よさだ…………」


 伝説の厄災獣フェンリルこと、クロである。

 彼は馬車の揺れを「高性能なマッサージ機」だと解釈したらしい。金色の目を細め、喉の奥からゴロゴロと幸せそうな音を漏らしている。


「クロ。……あんたが一番幸せそうね」


「当たり前だ。俺は『福利厚生担当マスコット』だからな。お前たちが必死に働いているのを、一番いい場所で眺めるのが俺の仕事だ」


「……あ。リリア嬢、今の聞いたかい? 厄災獣様に『お前たちが必死に働いている』と憐れまれたよ。僕は王子なのに」


 アランがガックリと肩を落とす。


「いいじゃない、アラン。王都に帰れば、あなたはまた『無能なふり』をして、腐敗した王宮のバグ(派閥争い)に巻き込まれるんでしょ? それに比べれば、ルベリット領の明確な目標(納期)に向かって働くのは、健全な精神活動だわ」


「……否定できないのが一番辛いよ。……確かに、君に叩き起こされて書類を書かされている時の方が、『生きている実感』があるんだ。八歳のお嬢相手と対等に話す状況になるなんて……ほんと人生なにがおこるかわからないものだね」


 アランが自嘲気味に笑い、再びペンを走らせる。


 ……よし。彼は順調に「ルベリット・ホワイト」に染まってきているわね。


 すると、反対側の座席に座っていたミーナが、少し心配そうに窓の外を指差した。


「お、お嬢様……。そろそろ、中継地点の宿場町が見えてきました。……あそこ、なんだか様子が変です」


 私は資料から顔を上げ、窓の外に目を向けた。

 かつては街道の要所として栄えていたはずの宿場町だが、見える景色はどんよりと暗い。建物の壁は剥がれ、道行く人々の足取りは重く、何より活気エネルギーが感じられない。


「……なるほど。王都に富が集中しすぎて、インフラ整備が追いついていないのね。まさに『中央集権のバグ』が表面化しているわ」


 アランが眉をひそめる。


「……ここは魔導士ギルドが管理している街だ。彼らが魔石の供給価格を上げたせいで、民草の生活が圧迫されているという噂は聞いていたが……これほどとは」


「魔石の独占による、人為的なインフレ……。前世のオイルショックみたいなものね」


 私は不敵な笑みを浮かべた。

 

「クロ。アラン。ミーナ。……少し予定を変更しましょう。この宿場町で一泊するわ。……ただし、ただの宿泊じゃない。――『ルベリット・モデル』のテスト導入(実証実験)よ」


「……えっ。お嬢様、また何か始めるんですか?」


 ミーナが引き気味に尋ねる。


「決まっているでしょう。……困っている市場マーケットがあるなら、そこにソリューション(解決策)を叩き込む。それがビジネスの基本よ。……さあ、アラン顧問! 宿に着いたらすぐに『現地ギルドとの交渉資料』を作成して! 目標は、今夜中にこの街のエネルギー問題を解決することよ!」


「…………。……。……まだ朝の十時なんだよ、リリア嬢…………。三日間、ゆっくり馬車に揺られるんじゃなかったのかい…………?」


「何言ってるの。三時間寝たから、今の私は無敵よ!みんなも睡眠時間だけは問題なく取っているはず。 さあ、仕事プレゼンの時間よ!」


 八歳の幼女が放つ、王族さえも圧倒するほどの「社畜の覇気」。


 アランは諦めたように溜息をつき、クロは「また始まったか」と鼻を鳴らし、ミーナは「お嬢様らしいです!」と目を輝かせた。


 伝説の社畜令嬢リリア、王都への道中。

 彼女が通り過ぎた場所には、ペンペン草も残らない……いいえ、完璧に最適化デバッグされた世界が残されることになる。


 不眠不休の聖女、王都進出編。

 その最初の生贄クライアントは、すぐ目の前に迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ