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転生令嬢、もふもふと社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第二章 ホワイト領地宣言!

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第24話 外交担当のヘッドハンティング

伝説の厄災獣フェンリルによる「セキュリティ・デモンストレーション」から一夜明けた、午前四時。


 三時間の急速充電(睡眠)を終えてパチリと目覚めた私は、廊下から漏れる微かな光に気づいた。


「あら。まだ起きてる『デバッグ作業員』がいるわね」


 私が応接室の扉をそっと開けると、そこには絶望的な量の書類の山に埋もれ、羽根ペンを震わせながら動かしているアラン王子の姿があった。


 昨夜、股間を濡らして失神した騎士団長ベネットや他の騎士たちは、現在、地下の物置(臨時の独房)で「自分たちは何を見たのか」という哲学的自問自答に耽っている。


 そのすべての後始末――王都への報告書の作成、騎士団の不祥事の隠蔽工作、そしてリリアへの謝罪文のドラフトを、アラン王子が一人で背負い込んでいた。


「……殿下。まだ『残業』されていたのですか?」


「……リ、リリア嬢か」


 アラン王子が顔を上げた。その瞳の下には、前世の私を見ているかのような、親しみを感じるほど深いクマが刻まれている。


「……報告書が、終わらないんだ。騎士団の暴走をどう説明すればいい? 『伝説の厄災獣が幼女の肩叩き機になっていたので、喧嘩を売ったら国が滅びかけました』なんて書けるわけがないだろう……。そんなの、宰相閣下に『疲れてるのか?』と休職を勧められて終わりだ……」


 アラン王子は力なく笑い、ペンを置いた。その背中は、組織の板挟みになって摩耗した中間管理職そのものだった。


(……あ。この人の魂、今亀裂が広がり始めてるわね)


 私のエンジニアとしての眼が、アラン王子の精神的限界を検知した。

 彼は有能だ。この混乱の中で、リリアの技術の価値を認め、なおかつ王都との破滅的な衝突を避けようと必死に調整している。……まさに、私が欲しかった「外交・法務」のスペシャリスト。


「殿下。……一度、作業を中断して、私の『福利厚生』を受けませんか?」


「福利……厚生……? また新しい、恐ろしい魔導具でも出すのかい?」


「いいえ。もっと根源的な『修復プログラム』よ。……クロ、お願い」


 私の背後から、アクビをしながらクロが歩み寄ってきた。

 昨夜の山のような巨体ではなく、今は手のひらに乗りそうな、ふわふわの漆黒の仔犬姿だ。


「……ふん。お前がそこまで言うなら、少しだけ貸してやる。……おい、王子。光栄に思え。一国を滅ぼす災厄の毛並みだぞ」


 クロはトテトテとアラン王子の膝に飛び乗ると、そのまま香箱座りをして「ゴロゴロ」と喉を鳴らした。


「……えっ。……あ、ああ…………」


 アラン王子が、恐る恐るクロの背中に触れた。

 その瞬間。王子の表情が、まるで憑き物が落ちたように劇的に変化した。


「な……なんだ、この感触は。シルクよりも滑らかで、雲よりも柔らかい……。……それに、なんだか、温かい魔力が……私の頭の中に溜まった『澱み』を、優しく洗い流してくれるような……」


「それが伝説の厄災獣の『パッシブ・スキル』よ、殿下。……クロの魔力は、触れる者の精神を安定させ、強制的にリラックスさせる効果があるの(※私が一ヶ月かけて、ブラッシングのついでに調整したんだけど)」


「…………あ、ああ…………。……王都なんて、……宰相閣下の説教なんて、……どうでもよくなってきた…………」


 アラン王子の瞳から、スッと理性の光が消え、代わりに究極の「癒やし」に浸る陶酔の色が広がっていく。

 彼はクロの首元に顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。いわゆる『魔獣吸い』である。


「……殿下。王都という『ブラック企業』に、いつまでしがみつくつもりですか? あなたのような有能な人材が、あんなバグだらけの組織で消費されるのは、社会的な損失マイナスだわ」


 私は、堕落しかけているアラン王子の耳元で、悪魔……もとい、最高の経営者の囁きを落とした。


「うちに来なさい、アラン。……あなたがルベリット領の『外交・法務顧問』になってくれるなら、このクロのブラッシング権を、毎日三十分付与するわ。もちろん、三食昼寝付き。有給休暇も法定通りよ」


「毎日……三十分…………クロ様を、モフっていいのか…………?」


「ええ。なんなら、一緒に寝るのも許可するわ」


 アラン王子の脳内で、王族としての誇りと、目の前の究極の癒やしが激しく衝突した。

 だが、三日間不眠不休で働かされ、さらに伝説の怪物を目の当たりにした彼の精神に、拒絶する力は残っていなかった。


「…………。……。……わかった。……いや、ぜひ、お願いしたい。……私は、……私は、王都という名の泥舟どろぶねを降りるよ……」


「契約成立(ヘッドハント成功)ね!!」


 私は、クロに埋もれてふにゃふにゃになった王子の手を、ガシッと握りしめた。

 

(……よし。財務のセシル、開発のカイル、現場のミーナ。そして外交・法務のアラン! これで主要スタッフが全員揃ったわね!)


 翌朝。

 地下牢から解放された騎士団長ベネットが、やつれ果てた顔でアラン王子を迎えにきた時。


 そこにいたのは、八歳の幼女の横で、仔犬を抱きしめながら「いやだ! 俺は帰らん! ここに永住するんだぁぁぁ!」と叫ぶ、完全に「ルベリット・ホワイト」に染まってしまった王子の姿だった。


 ルベリット領、第2章。


 王都からの視察団を「一人を残して全員撃退(一名は強制雇用)」するという、これ以上ない最高の結果で幕を閉じるのだった。


「……さて、クロ。次は王都からの『クレーム(再抗議)』が来るはずよ。……アラン、さっそく反論文書の作成に取り掛かってちょうだい!」


「……えっ。……あ、はい。……今すぐ、……やります…………」


 転職初日のアラン王子は、昨日までと変わらない「デスマーチ」の気配を感じながらも、腕の中のモフモフの感触だけを頼りに、再び羽根ペンを握るのだった。

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