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転生令嬢、もふもふと前世の社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第二章 ホワイト領地宣言!

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第17話 自動で動く魔導具作成

「お、お嬢様……。おはよう……ございます。信じられません、体が、羽が生えたように軽いです……。八時間も横になるだけで、人間はこんなに全能感に包まれるものなのですね……!」


 午前七時。地下の研究室に、顔色を劇的に改善させたカイルが現れた。

 三時間睡眠で深夜からずっと回路のハンダ付け(のような精密魔力溶接)をしていた私は、手元の作業を止めることなく、肩越しに彼を振り返った。


「おはよう、カイル。それは良かったわね。脳がリフレッシュされているうちに、昨日の続き――『条件分岐(if文)』の最適化を終わらせてちょうだい。今のままだと、魔力の供給過多オーバーフローで畑が泥沼になるバグが残っているから」


「は、はいっ! 今の私なら、お嬢様の理論を完璧にトレースできる気がします!」


 カイルは昨日までの絶望していた顔が嘘のように、ギラギラとした「開発者の目」で作業デスクに飛びついた。

 

 私たちが作っているのは、ルベリット領再生プロジェクトの要――【自立型魔導灌漑ユニット:プロトタイプ1】だ。

 

 普通、この世界の魔法使いは、自らその場に立って、詠唱を行い、自分の魔力を使って水を撒く。

だが、それだと「人」というリソースを常に畑に縛り付けることになる。それは極めて非効率だ。


 だから私は、私の『ハイ・アクセラレート』の理論を魔導回路に「プリインストール」し、空気中の魔素マナを動力源にして勝手に動く装置を開発することにした。

 

 前世の言葉で言えば、これは『サーバーの自動監視・保守スクリプト』のようなものだ。もっと簡単に言えば太陽光発電をしながら動く機械のようなものか。


「カイル、そっちの『検知センサー回路』はどう? 土壌の水分含有量が十%を切ったら自動で起動するように設定した?」


「できています! ですが、お嬢様……この『マナの周波数』で制御するという発想、何度見ても鳥肌が立ちます。これなら、魔石を使い果たしても、自然界の余剰マナを拾って動き続ける……。まさに、魔法の永久機関ですよ!」


「永久機関なんて、メンテナンスフリーがあり得ない以上、幻想よ。でも、コストパフォーマンスを最大化するのが、私の流儀ポリシーだから」


 私たちはそこから数時間、一言も発さずに作業に没頭した。

 カイルは王都の英才教育を受けていただけあって、一度私の「プログラミング言語(魔法式)」の基礎を理解してからは、驚異的なスピードでハードウェア(魔導具)の構築を進めた。

 

 私は、彼の作業の合間に、膝の上のクロをブラッシングしながら、最終調整を行う。


「……よし。コンパイル終了。……リリース(稼働)できるわよ」


「は、はい……! ルベリット領、魔導具一号機……完成です!」





       ★




 昼下がり。

 採用したばかりの人達を含めた領民たちが、新しい種を蒔くために荒野(を耕した畑)に集まっていた。

 ハンスさんとミーナが、不安そうに見守る中、私とカイルは奇妙な形の「石の柱」を抱えて現れた。


「皆、注目して。今から、この領地の『農業改革』の第一歩をお見せするわ」


 領民たちは、私の言葉に固唾を呑んだ。

 彼らにとって、リリアお嬢様は「不眠不休で奇跡を起こす聖女様」だ。今度は一体何が始まるのかと、期待と恐怖が混ざったような視線が注がれる。


「カイル、設置して」


「御意!」


 カイルが畑の中央に、刻印の刻まれた石柱を突き刺した。

 私が指先を軽くパチンと鳴らす。


(システム起動ウェイクアップ。全センサー、オンライン)


 カチッ、という小さな音が、畑全体に響いた。

 

 その直後。

 石柱から、青白い幾何学模様の陣が地面に展開された。

 地中から「ゴポゴポ」という音が聞こえたかと思うと、水路から水が自動的に引き込まれ、空中を舞う光の粒が霧となって、新しく蒔かれた種の上に降り注いだ。


「な……っ!? 魔法使い様がいないのに、水が勝手に……!?」

「見てくれ、土が! 土が勝手に、一番良い湿り具合に調整されているぞ!」


 領民たちが悲鳴のような声を上げて後退る。

 だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。


 降り注ぐ水を浴びた種が、目に見える速度で芽吹き、数分のうちに数センチの青々とした苗へと成長したのだ。


「お、お嬢様……。これ、私が一晩中走り回ってやっていた作業が……この『石の棒』だけでできているんですか?」


 ミーナが、震える声で尋ねてきた。


「そうよ、ミーナ。これが『自動化オートメーション』の力。あなたが今まで十の力でやっていた作業は、これからは一で済む。空いた九の力は、別のクリエイティブな仕事に回してちょうだい。これからは、『頑張る』んじゃなくて『仕組みで解決する』時代よ」


「仕組みで……解決……」


 ミーナが涙ぐみながら、その石柱を拝むように見つめた。

 彼女には、その石柱が「自分たちを過酷な労働から解放してくれる、主君の慈悲」に見えていた。


 領民たちも次々とその場に跪き、祈りを捧げ始める。


「「「おお……ルベリットの聖女様……!! 女神様の奇跡だ……!!」」」


「(……いや、これただの灌漑システムだし、女神様じゃなくて私とカイルの徹夜の成果なんだけど……)」


 またしても広がる盛大な勘違い。

 だが、隣に立つカイルもまた、同様に涙を流していた。


「お嬢様……。私は、自分の技術が、これほどまでに誰かに喜ばれるなんて、思ってもみませんでした。魔導院では、私の研究は『美しくない』『伝統に反する』と罵られるばかりでした。ただの自己満とも言われました。……でも、ここでは……。こんなに……こんなに素晴らしい、エンジニアとしての幸福がある……!!」


「カイル。……泣いている暇があったら、今のデータのログ(記録)を取って。バージョン二.〇の設計に入るわよ。次は『自動収穫機能』の実装ね」


「は、はいっ!! 今すぐに!!」


 カイルがノートを広げ、猛烈な勢いで書き込み始める。

 

 組織ができ、技術が生まれ、現場が効率化されていく。

 私の脳内にある「領地再建ロードマップ」のゲージが、ぐんぐんと上がっていくのがわかった。


「(……よし。次は物流ね。この大量に生産される麦を、どうやって効率的に王都へ運ぶか……。そのためには……)」


 私の視線は、もはや領地を越え、その先にある「王国全体」に向けられていた。

 

 そんな私の横で、クロが退屈そうにアクビをする。


「おい、お前。仕事もいいが、そろそろ俺の夕食の時間だぞ。今日は高い肉(福利厚生)を奮発してもらうからな」


「わかってるわよ。クロの機嫌を取るのも、CEO(当主代行)の重要な仕事だものね」


 私はモフモフの頭を撫でながら、夕日に照らされる「自動化された農場」を眺めた。

 

 今日は、世界一ホワイトな領地に向けての歴史的な第一歩の日となった。

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