表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢、もふもふと前世の社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第二章 ホワイト領地宣言!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

第15話 合理的な中途採用術

 「ホワイト領地宣言」から数日。

 ルベリット領の正門前には、かつてないほどの人だかりができていた。


「おい、本当かよ。あそこに行けば飯が食えて、しかも『八時間寝られる』って話は……」

「銀色の麦が一晩で実ったらしいぞ。没落したリリアお嬢様が、聖女として目覚めたんだってよ」


 噂の拡散スピードは、私の予想を上回っていた。

 ベリング商会に納品した『銀糸麦』が市場に出回ったこと、そしてハンスさんに命じた「求人広告」という名の口コミが、食い詰めた人々の心に火をつけたらしい。


 私は、ボロ屋敷の前に置いた使い古しのデスク――今は『受付カウンター』と呼んでいる――に座り、膝にクロを乗せて深呼吸をした。


「……よし。ミーナ、進捗はどう?」


「お、お嬢様……。門の前に、すでに五十人以上の志願者が並んでいます。中には、以前逃げ出した元領民の姿も……。彼ら、お嬢様に叱られると思って震えてますけど」


 十四歳のメイド、ミーナが困惑気味に報告してくる。彼女の手には、私が作成した『スキルチェックシート』という名の羊皮紙が握られていた。


「叱る? 時間の無駄よ。……いい、ミーナ。今回必要なのは『過去の罪』じゃなくて『将来のスキル』。今日から始めるのは、ルベリット領の組織拡大スケールアップに向けた第一回・大規模採用面接よ!」


「さい、よう……めんせつ?」


「ええ。適材適所。不当な差別バグを排除して、最もパフォーマンスを発揮できる人材を適正なポジションに配置する。――クロ、準備はいい?」


「……。俺はただ、お前の横で睨みを効かせていればいいんだな。……ふん、あいつら、俺を見るたびに腰を抜かしてて笑えるぞ」


 クロが金色の瞳を光らせる。

 伝説の厄災獣が面接官の横に座っている。これ以上ない「圧」だ。圧迫面接どころの話ではない。


「じゃあ、一人目。どうぞ!」


 最初に入ってきたのは、以前うちから逃げ出した元農夫の男、トマスだった。

 彼は私の顔を見るなり、地面に額を擦り付けて震え出した。


「リ、リリアお嬢様! 申し訳ございませんでした! 食うに困って逃げ出した俺を、どうかお許しください! どんな罰でも受けます、奴隷としてでも働かせてください!」


「トマスさん。……頭を上げて。罰を与える時間があったら、畑の一枚でも耕してほしいの」


 私は冷徹な……もとい、プロの人事担当者のような瞳で彼を見た。


「過去のことはどうでもいいわ。それより、あなたの『直近のキャリア』について聞かせて。逃げ出した後、どこで何をしていたの?」


「え、えっ……? 隣の領地で、石積みや水路の補修をして食い繋いでおりましたが……」


「石積みと水路の補修? ……いいわね、建設・土木経験あり……即戦力じゃない。あなたのスキルがあれば、今のルベリット領に必要な灌漑かんがいシステムの拡張を任せられるわ。――採用よ」


「……え?」


 トマスが呆然とする。私は流れるような動作で羊皮紙にスタンプ(という名の魔印)を押した。


「条件は提示した通り。一日八時間の労働、週休二日。ただし、私の『進捗管理』に従ってもらうわ。……はい、次!」


「あ、あの! 罰は!? 鞭打ちは!?」


「そんなの生産性がないでしょう? 早く現場フィールドに戻りなさい。ハンスさんが休養前最後の仕事としてオリエンテーションを始めるから」


 その後も、私は淡々と「面接」をこなしていった。

 異世界転生モノの定番であれば、ここで「無能を装った天才」が現れるところだが、今の私に必要なのは、まずは「基盤インフラ」を支える一般職だ。


「あなたは? ……計算ができる? 素晴らしいわ、経理事務の補佐に。……あなたは? ……猟師をしていた? 森の資材調達チームへ」


 並んでいた人たちが、次々と「採用」されていく。

 彼らは一様に困惑していた。

 自分たちは没落令嬢に叱られ、過酷な労働を命じられると思っていた。

彼らもそれなりの覚悟をしてやってきている。


それがどうだ。提示されたのは、彼らの知る異世界の常識では考えられないほどの「ホワイトな待遇」と、明確な「役割分担」。


「お、お嬢様……。本当に、あんなに雇っていいんですか? お金、大丈夫なんですか?」


 ミーナが心配そうに囁く。


「ミーナ。先行投資よ。銀糸麦の売上金の一部を、人的リソースに変換しているの。人がいなければ、領地はただの砂漠。人がいれば、領地は『金を生むプラットフォーム』に変わるわ」


 その時だった。

 列の最後の方に、明らかに周囲の農夫たちとは違う「淀んだオーラ」を纏った男が立っていた。

 ボロボロのローブ。乱れた髪。だが、その手には、使い古された魔導具の部品が握られている。


(……お、掘り出しレアキャラが来たわね)


 私は膝の上のクロを軽く叩いた。クロも、


「おい、こいつは少しだけマナの匂いがするぞ」


と目を細める。


「次の方。お名前と志望動機……いえ、あなたの『ポートフォリオ』を見せてくれるかしら?」


 男は力なく笑い、私の前に跪いた。


「……カイルと申します。元・王都魔導院の……落ちこぼれ研究員ですよ。魔法の自動化なんてバカな理論を唱えて、追放されました。……ここなら、死ぬまで働かせてくれると聞いたので、実験材料にでもしてください」


 魔法の自動化。

 私の求めていた「エンジニアリング」の単語が、彼の口から飛び出した。


「魔法の自動化……。最高にワクワクするバグね、それは」


 私はデスクから身を乗り出し、八歳の幼女とは思えないほどの、ギラついた「上司」の眼をカイルに向けた。


「カイルさん。死ぬまで働かせるなんて、うちのコンプライアンス(社則)に反するわ。……その代わり、三時間睡眠で限界まで開発に没頭できる『最高のラボ(職場)』なら用意してあげる。……どう? 私の右腕として、この領地を『魔導スマートシティ』に書き換える気はない?」


「……え?」


 カイルの瞳に、絶望ではない「熱」が灯る。

 こうして、ルベリット領に最初の「技術職」が加わった。


 夕暮れ。


 ハンスさんが泣きながら、採用された領民たちに「今日からあなた方は、ルベリット家の一員です……! さあ、定時まであと一時間です、働きましょう!」と叫んでいる。

 ……ハンスさん、定時を意識しすぎて逆にブラックになってないかしら。なんで泣いているのだろうか。


「(組織の骨組みは整ったわね。……次は、カイルと一緒に『農業自動化オートメーション』のシステム構築よ!)」


 私の頭の中には、すでに領地全体の設計図アーキテクチャが完成していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ