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転生令嬢、もふもふと前世の社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第一章 異世界転生 そして残業開始

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第13話 納品完了と伝説の始まり(?)

 七十二時間のデッドライン、最終日の夕刻。

 ルベリット領の屋敷の前には、豪奢な馬車が二台、勝ち誇ったような音を立てて止まった。


 一台はベリング商会の会頭。そしてもう一台には、この領地を狙うベリング子爵の腹心、エドワードが乗っている。


「ヒッヒッヒ、会頭。楽しみですな。あの生意気な幼女が、絶望に顔を歪めて泣きつく姿が。一千キロの銀糸麦? 熟練の農夫が百人いても一週間はかかる。それをガキが一人でなど、笑止千万!」


「……ああ。契約通り、麦がなければ彼女の身柄は子爵様に。あのような稀有な魔力を持つ素材、研究対象としても最高でしょうな」


 彼らが馬車から降りた瞬間。

 目の前に広がる光景に、二人は言葉を失った。


 そこには、一昨日まであったはずの荒野はない。

 夕日に照らされ、地平線まで整然と並ぶ銀色の切り株。そして、屋敷の横には、信じられないほどの高さに積み上げられた麻袋の山があった。


 その山の頂に、一人の幼女が座っている。

 八歳の令嬢、リリア。

 その頬は高揚感で赤く染まり、瞳にはギラギラとした「完遂(コンプリート)」の光が宿っていた。


「……定刻一分前ですね。ベリング会頭、エドワード様。――納品物の検収準備はよろしいですか?」


「なっ……馬鹿な! この量は、まさか……!」


 エドワードが顔を真っ青にして叫ぶ。

 私は麻袋の山からひょいと飛び降りると、前世で「無茶振りを完遂して上司の顔に企画書を叩きつけた時」と同じ、最高に冷徹な営業スマイルを浮かべた。


「銀糸麦、正確に一千一百キロ。……念のため、輸送中のロスを考慮して一割ほど多めに積んでおきました。……ミーナ、品質証明用のサンプルを」


「は、はい……!」


 後ろから現れたのは、ボロボロのメイド服を泥だらけにし、魂が口から漏れかけているミーナだ。彼女は震える手で、一袋の麦を開封した。


 溢れ出したのは、月の光を凝縮したような、透き通るような銀色の粒。

 会頭が震える手でそれを一粒取り、口に含んだ瞬間――。


「…………なっ…………!!」


 彼はその場に膝をついた。


「なんだ、この密度は……! 雑味が一切ない。それどころか、魔力回路を活性化させるほどの清浄な力が……。これは、通常の銀糸麦ではない。王宮の晩餐会に出される最高級品にも並ぶ……『特級品』だ!!」


「そんな……ありえん! 魔法で無理やり成長させた麦など、スカスカで食えたものではないはずだ!」


 エドワードが喚き散らす。私はふっと鼻で笑った。


「失礼。私の魔法を、そこらへんの『力押し』と一緒にしないでいただけますか? 私がしたのは成長の加速ではなく、細胞分裂の『最適化』。土壌の魔力配分をリアルタイムで監視し、一粒一粒の栄養バランスを調整しながら育てました。……いわば、私の三日間の『執念』が詰まった結晶ですよ」


 本当は何万回と練習した成果なんだけど、今は「執念」と言った方が迫力が出るからいいわよね。


「さて、契約通り一千キロプラスアルファの納品は完了しました。会頭、金利の再設定と不当介入の阻止、約束は守っていただきますよ?」


「あ、ああ……。もちろんだ、リリア様。……いや、ルベリット男爵代行。あなたは……化け物だ」


「最高の褒め言葉として受け取っておきます」


 すると、面白くないのがエドワードだ。彼は私たち二人のやり取りを見ると顔を真っ赤にして、背後の護衛に命じた。


「認めんぞ! こんなの不正だ! 誰か他の魔導師を雇って……そうだ、その横にいる汚い男たちはなんだ! 貴様、どこからか労働者を雇ったな!? これは不当な契約――」


 エドワードが指差したのは、麻袋の陰でガタガタと震えながら、泥水のようなお茶を啜っている五人の男たちだった。

 ……そう、刺客(外注さん)だ。


「あら、彼らですか? 彼らはベリング子爵様が派遣してくださった『特別支援チーム(工作員)』の皆さんですよ? 深夜に松明を持って、私の情熱(麦畑)をさらに燃え上がらせに来てくれたんです」


「な、何だと……っ!?」


「彼ら、あまりに熱心に仕事を手伝ってくれるので、助かりました。……ねぇ、皆さん? あなたたちの雇い主は、そこにいるエドワード様ですよね?」


 リリアがニコリと笑い、背後のクロが「グルル……」と喉を鳴らす。

 刺客たちは一瞬でエドワードを指差し、泣き叫んだ。


「そうだ! このエドワードに麦を焼けって言われたんだ! でもリリア様が、リリア様が俺たちに働く喜び(物理的な恐怖)を教えてくれたんだぁぁぁ!!」


「エドワード様……これは、業務妨害およびテロ行為の教唆ですね」


 私は懐から、ハンスに書かせた『証言記録』を取り出し、エドワードの目の前でひらひらと揺らした。


「これを憲兵局に持ち込めば、子爵家はタダでは済みませんよ? ……どうします? このまま大人しくお帰りになるか。それとも、私の『復讐(残業)』の対象になりたいですか?」


「ひ、ひぎぃっ……!! お、覚えていろよ!!」


 エドワードは脱兎のごとく馬車に飛び乗り、逃げ去っていった。

 あー、清々した。バグが一つ片付いたわね。


 静寂が戻った夕暮れの農場。

 会頭は麦の山を眺め、リリアに深く頭を下げた。


「……負けた。完璧な敗北だ。リリア様、我が商会は全力でこの麦を売りさばき、ルベリット家の再興を支援しましょう。……あなたは、本物の聖女だ」


「いえ、私はただの社畜――じゃなくて、仕事熱心な令嬢なだけです」


 会頭が立ち去り、ようやく静かになった。

 ハンスさんは「リリア様ぁぁ!! ルベリット家が救われましたぁぁ!!」と号泣しながら私の足に縋り付いている。

 ミーナは立ったまま気絶していた。


「……ふぅ。……プロジェクト、完遂ね」


 私はふらりと体が揺れるのを感じた。

 三日間、合計九時間の睡眠。一千百キロの銀糸麦を成長させるデバック魔法。

 前世のデスマーチの記憶が、今の小さな体と同期して、心地よい「限界」を告げている。


「お、お嬢様!? リリア様! 顔色が……真っ白に……!!」


「……大丈夫よ、ハンスさん。……三時間、いや、今日は特別に……六時間、寝かせてもらうわ……」


「お嬢様ぁぁぁ!! 死なないでくださいぃぃ!!」


 私はハンスさんの絶叫を心地よい子守唄代わりに、深い、深い眠りへと落ちていった。

 それは、伝説の「不眠不休の聖女」が、領地を救った最初の神話として語り継がれる瞬間のことだった。

これにて第1章終了です!

お読みいただき、ありがとうございます!!


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