第89話 魔王の嫉妬は家電を殺す!? 友人からの電話と、規格外な独占欲
最近、ようやく恋人になったばかりの私とあっくん。
付き合い始めてからというもの、毎日が少しだけ浮ついていて、でもどこか現実感がなくて――そんな、甘くも微妙な距離感のまま過ごしていた。
その日の夕方。
私はリビングで洗濯物を畳みながら、スマホを肩と耳で挟んでいた。
「そうそう。お正月は実家だよ」
スマホの向こうから、懐かしい笑い声が返ってきた。
『ははっ、相変わらずやねぇ。みのりんち、正月は毎年戦争やろ』
「ほんとそれ! 今年も朝からお母さんが張り切りすぎてさ」
『想像つくわ〜。おせち作りすぎて、結局余らすやつやろ』
「そうなの! もう何年同じことしてるんだか」
思わず声が弾む。
久しぶりに話す地元の男友達――小学校からの腐れ縁で、帰省のたびに連絡を取り合う気心の知れた相手だ。
『しかし、久しぶりやなぁ。元気しとった?』
「うん、なんとかね。そっちは?」
『ぼちぼちたい。相変わらず地元から出きらんでさ』
他愛もない世間話。それだけの、はずだった。
――なのに。
ぱちっ。
小さな静電気のような音と同時に、部屋の照明が一瞬だけ明滅した。
「あれ……?」
違和感に顔を上げると、部屋の奥にいたあっくんが、微動だにせずこちらを見ていた。
表情は穏やか……なのに、周囲の空気が、妙に重い。
『みのり? 今、なんか変な音しなかった?』
「え? 気のせいじゃないかな……」
そう答えた瞬間だった。
――ジジジジッ……!!
テレビの画面に砂嵐が走り、エアコンが勝手に最大風量になり、冷蔵庫が「ヴぉん……」と不穏な重低音を響かせ始めた。
「ちょ、ちょっと!? なにこれ、ポルターガイスト!?」
慌ててスマホを見ると、画面の端に表示された充電マークに目を疑った。
【 120% 】
「……は?」
しかも、数字が限界突破して激しく点滅している。
嫌な予感しかしない。
『みのり? 大丈夫か? なんか通信が……』
「ご、ごめん! あとでかけ直すね!」
慌てて通話を切った、その直後。
びしっ!
私の手の中で、スマホが物理的に不穏な熱を帯びた。
「待って待って、爆発する! 爆発しちゃうから!」
「……余は、何もしておらぬ」
低く響く、バリトンの声。
振り向いた瞬間、私は息を呑んだ。
威圧感たっぷりの魔王の風格……なのに。
その眉は下がり、瞳は不安げに揺れていた。
「余以外の男と……随分、楽しそうに話していたな」
「え、原因それ!? ただの友達だよ!」
次の瞬間、あっくんの足元で火花が散り、コンセントから「パチパチ」と放電する音がした。
「ちょっと! 放電やめて! 家電たちが情緒不安定になってるから!」
「……すまぬ。制御は、しているつもりなのだが」
そう言いながら、あっくんはゆっくりと距離を詰めてくる。
完全に見下ろされる形になり、思わず一歩後ずさると――。
「余は、まだ慣れておらぬのだ」
「え……?」
「恋人、という立場に……そして、嫉妬、という感情にな」
そう言って、二メートルを軽く超える巨躯が、ずいっと私を影の中に閉じ込めた。
しょんぼりという言葉を具現化したような、不思議な迫力で。
「余の知らぬところで、みのりが他の男と笑っていると思うと……胸が、ざわつくのだ」
「……ただの世間話だってば」
「それでもだ」
真剣すぎる眼差し。
独占欲、全開。
「余以外の男と、そんなに楽しそうに話さないでくれ」
「……それ、魔王の台詞としてどうなの」
呆れながらも、私はそっと彼の頬を手のひらで撫でた。
途端に、周囲の家電から鳴り響いていた異音が、嘘のようにぴたりと止む。
「……ほら。大丈夫だよ」
「みのり……」
「ちゃんと好きなのは、あっくんだけだから」
そう告げると、あっくんは一瞬目を見開き――次の瞬間、顔どころか耳まで真っ赤になった。
「……その言葉は、反則だ」
私は苦笑しながら、未だ「120%」を表示したままのスマホを机に置いた。
「とりあえずさ。この充電、どうにか元に戻せる?」
「……善処しよう」
魔王の嫉妬は、どうやら規格外らしい。
でも――それすら愛おしいと思ってしまう私は、もうだいぶ、彼に毒されているのかもしれなかった。




