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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第88話 波乱の正月帰省

 クリスマスが終わったと思ったら、あっという間に年末年始。

 私はあっくん、ルカくん、リュカくん、それにタヌロフを連れて、実家へ帰省することになった。


 玄関の引き戸を開けた、その瞬間だった。


「みのりーーー!! あんた、よう帰ってきたねぇ!!」


 母が、弾丸のような勢いで飛び出してきた。


「ただいま……って、お母さん近い近い!」


「そげんこと言わんで! あらまぁ〜、アツシさんも相変わらず男前やねぇ!」


「ご無沙汰しております、お義母――」


「まだ義母やなか! でも、もう時間の問題やろ!」


 あっくんの言葉を遮るように、母が食い気味に言い切った。


「ちょ、ちょっと待ってお母さん……」


「待たん待たん! あんたら、ついに恋人になったっちゃろ? お祝いたい! 赤飯炊いとるけんね!」


 どうやら母は、勝手に祝杯をあげる準備まで済ませていたらしい。


「ルカくんもリュカくんも、タヌロフちゃんも! よー来たねぇ! 正月やけん、食べて飲んで寝て、しっかり太って帰りんしゃい!」


「ありがとうございます……!」


「寝正月、最高たぬ!」


 父は父で、縁側からのんびりと声をかけてくる。


「遠かったろ。こたつ、もう温まっとるぞ」


「ありがとうございます、お父上」


「相変わらず礼儀正しかねぇ、アツシくんは」


 そして、問題はそのあとだった。


「で。アツシくん」


「は、はい」


「結婚は、いつにするね?」


「ほら、また始まった!!」


 思わず叫ぶ私を完全に無視して、母は畳みかける。


「ほら、恋人になったっちゃろ? 正月やし、親戚も集まるし、流れ的にも完璧やん」


「流れって何よ!? まだ付き合いたてよ!」


「両家顔合わせも、もう済んどるようなもんやし!」


「これ、ただの帰省だから! 勝手に進めないで!」


 あっくんは困ったように、それでもどこか嬉しそうに微笑んだ。


「みのりのご両親に、そこまで歓迎していただけるのは……光栄だ」


「ほら見て! この余裕! アツシくん、覚悟が決まっとるやろ!」


「話が飛びすぎだってば!」


 ルカくんとリュカくんは、少し離れたところで戦々恐々と小声で囁き合う。


「……すごいですね、みのりさんのお母上。今日もパワフルです」


「はい……人間界の母親というのは、魔力とは別の『圧』が強いです……」


 タヌロフはというと。


「結婚? お祝い? 肉は出るたぬ?」


「出る出る! 今夜は特上のすき焼きたい!」


「最高たぬー! 一生ついていくたぬ!」


 結局そのまま、嵐のようなお正月が始まった。


 騒がしくて、慌ただしくて、でも――

 この人たちに囲まれている時間は、やっぱり温かい。


 こたつの中で、そっとあっくんの手に触れると、彼は優しく握り返してくれた。


「……相変わらず賑やかな家族だな、みのり」


「でしょ。もう逃げられないから、覚悟してね?」


「もちろんだ」


 居間にはまた、母の「で、式はどこでするねー!」という声が響き渡る。

 今年のお正月も、どうやらとんでもない波乱含みになりそうだった。


 ◇


 賑やかな夕食が終わったあと、父が台所から古びた一升瓶を持ってきた。


「アツシくん、こっちで一杯……どうだ」


 縁側に近い静かな角で、父が手招きする。

 あっくんは「はい、喜んで」と居住まいを正し、父の向かいに腰を下ろした。


 父はお猪口にトクトクと酒を注ぎ、あっくんに差し出す。


「ありがとうございます、お父上」


「いいんだ、家では肩肘張らんでくれ」


 父は自分も酒を煽り、ふっと目を細めた。

 あっくんも酒に口をつける。

 

「みのりは、俺たちにとって……たった一人の、大切な宝物なんだ」


 父の視線が、少しだけ鋭くなる。それは魔力とは無関係な、親としての切実な重みだった。


「もし、あの子を泣かせるようなことがあったら……俺は、たとえアツシくんがどんなに立派な男でも、容赦はせんばい」


 その言葉に、あっくんはお猪口を置き、父の目を真っ直ぐに見つめ返した。


「……お父上。余は、みのりと出会って、この世界の温かさを知りました。彼女は余にとっても、この命に代えても守り抜きたい、唯一の存在です」


 あっくんの声には、迷いがなかった。魔王の宣言ではない。一人の男として、愛する女性の父に向けた、誠実な宣誓だった。


「……泣かせることはありません。もし彼女が涙を流すとしたら、それは幸せすぎて困った時だけにすると、約束します」


 お父さんは一瞬、呆気に取られたように目を見開いたが、すぐに「ははは!」と短く笑った。


「さすが、アツシくんやね……よか、わかった。今日はもう、小難しい話は抜きたい。飲もう、飲もう!」


「はい。いただきます」


 二人の間に流れる空気が、少しだけ柔らかくなる。


 そのとき、あっくんは襖の隙間から心配そうに覗く私に気付いて、小さく目配せをする。「大丈夫だ」と伝えるように。


 雪が降り始めた外の静寂とは裏腹に、二人が酌み交わす湯呑みの中は、どこまでも温かく揺れていた。


 ◇


 嵐のような正月帰省も、終わってみればあっという間だった。


 駅のホームには、名残惜しそうに新幹線を見上げる父と、最後まで窓越しに手を振り続ける母の姿があった。


「アツシさん!  次来るときは、二人して同じ苗字になっとかんといかんばい!」


「承知した」


(するんだ!?)


 走り出した新幹線の座席で、私はぐったりと背もたれに体を預けた。


 隣ではあっくんが心なしかいつもより満足げな表情で、父から持たされた土産の包みを膝に置き、ルカくんとリュカくんは、タヌロフを間に挟んで、母が持たせてくれた大量の弁当を幸せそうに広げている。


 魔王軍の面々が、私の実家ですっかり「家族」の一部として馴染んでしまった光景。


「……また、来年もみんなで行こうね」


「ああ。来年は、お母上の期待に応える報告ができるようにせねばな」


「ちょっと、変なプレッシャーかけないで!」


 あっくんが冗談めかして笑い、私の手を力強く握りしめる。


 車窓を流れる冬の景色を眺めながら、私はこれから始まる新しい一年に、静かな期待を抱いていた。

 賑やかで、波乱万丈で、けれどこれ以上なく愛おしい日々。


 私たちの「日常」という名の物語は、これからもこの世界で、ずっと続いていく。

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