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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第87話 この世界で見つけた、いちばんの居場所

 六畳一間のアパートの空気は、いつも以上に熱気に満ちていた。


 魔法で拡張された部屋の中央には、あっくんが適当な呪文で物理的に巨大化させた「特設宴会用コタツ」が鎮座している。


 天板はいつもの倍以上の広さになり、その上には仕事帰りにみんなで買ったスーパーのチキンと、私が奮発したホールケーキ、そしてタヌロフが陣取るポテトの山が並んでいた。


「――それで? 二人とも、クリスマスデートはどうだったのよ」


 私は家計簿を脇に除け、身を乗り出してルカくんとリュカくんを交互に見つめた。

 隣ではあっくんが、サンタ帽を少し斜めに被りながら、シャンメリーの栓を抜こうとしている。


「どう、と言われましても……僕は、真帆さんに一生をかけて守り抜くと、改めて伝えてきました」


 巨大なコタツに深く肩まで潜りながら、ルカくんがいつになく真面目な、それでいてどこか晴れやかな顔で言う。


蒼晶石サファイアを贈ったのですが、真帆さん、僕の言葉を『嬉しい』と言ってくださって……」


「……重い。初手から覚悟が重いよ、ルカくん」


 私は思わず額を押さえた。

 サファイアって。バイト代、何ヶ月分飛んだの。

 魔王の側近としての忠誠心を、全部真帆さんに注ぎ込んだような熱量だ。


「僕も……絵莉さんと、手を繋いで歩きました。魔法じゃないのに、街がすごくあたたかかったです」


 リュカくんは頬を染め、空中をぼんやり見つめている。

 その背後で、彼の高まった魔力に当てられたのか、部屋の隅のクリスマスツリーが「パチパチ」とありえない輝きを放ち始めた。


「リュカくん! 無意識にツリー発光させないで! 電気代かからないのは助かるけど、眩しすぎるから!」


「良いではないか、みのり。余の部下たちがこの世界の女子おなごを射止めたのだ。余も鼻が高いぞ」


 あっくんがようやくシャンメリーの栓を抜き、「ポンッ」という景気のいい音が響く。


「タヌロフも、チキン食べるたぬ! お祝いは肉って決まってるたぬー!」


 タヌロフがポテトの山から飛び出し、戦場さながらの賑やかさが加速した。


 ……もう、これ何の会だっけ。

 少し呆れながらも、私は自分のコップに注がれた泡を見つめた。


 賑やかで、騒がしくて、出費も嵩むけれど。

 こんな風に笑い合える「聖夜」なら、たまには家計簿を閉じるのも悪くないと思った。


 ◇


 賑やかだった報告会も、いつの間にか静かになった。


 巨大化したコタツの魔力か、それともお腹がいっぱいになった安心感か、ルカくんはコタツに潜ったまま規則正しい寝息を立て、リュカくんはクッションを抱えたまま幸せそうに夢の中。

 タヌロフに至っては、空になったチキンの袋を抱きしめて「むにゃむにゃ……おかわりたぬ……」と寝言を言っている。


「……賑やかだったのに、急に静かになったね」


 私が小さく笑うと、隣でシャンメリーの最後の一杯を飲み干したあっくんが立ち上がり、そっと私の肩に手を置いた。


「みのり。少し、外へ出ないか。夜風に当たりたい」


 アパートの屋上へ続く階段を上り、重い扉を開けると、冷たい夜気が一気に頬を撫でた。

 街の喧騒は遠く、空には冬特有の鋭く澄んだ星が散らばっている。

 あっくんは手すりに寄りかかり、眼下に広がる街の光を眺めた。


「みんな、本当に楽しそうだったな」


 隣に並んだあっくんが、夜景を見つめたまま静かに口を開く。

 その横顔は、スーパーでレジを打っている時とも、コタツでみかんを食べている時とも違う、かつての魔王としての威厳と、今の彼だけの優しさが混ざり合った不思議な表情だった。


「ルカは真帆さんに『守護』を誓い、リュカは絵莉さんに『世界の美しさ』を教わった……あの二人が、この世界で自分の居場所を見つけたのは、本当に嬉しいことだ」


「そうだね。みんな、この世界のこと、どんどん好きになってくれてるみたい」


「ああ。余にとっても、この騒がしい部屋でみのりと笑っている時間は価値があると思っている」


 あっくんがふいに向き直り、私の手をそっと握った。

 直接伝わる彼の体温が、冬の冷気の中で驚くほど熱く感じる。


「みのりの隣でこうして風に当たっているだけで、余の心は満たされている」


「あっくん……」


「これ以上の贅沢はない……今夜は、ただこうしてみのりと二人、静かな時間を過ごしたい」


 不器用な、でも真っ直ぐな言葉。

 私は熱くなる目元を隠すように、あっくんの腕にそっと頭を預けた。

 繋いだ手から伝わる鼓動が、冬の夜風を忘れさせるほどにあたたかい。


「……うん。私も。あっくんとこうして星を見てるのが、一番幸せだよ」


 遠くで鳴る教会の鐘の音が、私たちの、静かな聖夜を祝福しているようだった。

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