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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第85話 「迷子防止」は魔法の言葉!? 無自覚魔族の青年と恋するOL、聖夜の街を光らせる

 スーパーの自動ドアが開くたび、外から冷たい風と一緒に、遠くの街角で流れるクリスマスソングのメロディが紛れ込んでくる。


 レジ横の棚には赤いリボンのついたお菓子袋が並び、店内の空気はいつもより少しだけ、そわそわと浮足立っているようだった。


「お疲れさま、リュカくん!」


 バックヤードへ戻ろうとした僕の背中に、弾むような声が届く。

 振り返ると、そこには白いファーのついたコートを着た絵莉さんが、顔を少し赤くして立っていた。


「……絵莉さん。また、来てくれたんですか」


「当たり前じゃない。はい、これ、差し入れのホットレモン」


 手渡された缶の温かさに、指先の感覚がじわりと戻ってくる。


「……ありがとうございます。あの、今日は……」


「決まってるでしょ? デート、第二回戦!」


 絵莉さんは悪戯っぽく笑って、僕の腕を軽く引いた。


「今日はね、ちょっと寄り道したいところがあるの」


 ◇


 駅の方へ歩いていくと、景色は一変した。


 街路樹には無数の小さな光が灯り、まるで星屑をぶら下げたみたいにキラキラと瞬いている。


 立ち並ぶビルのショーウィンドウは赤やゴールドの装飾で彩られ、行き交う人々のマフラーの色さえも、どこか華やかに見えた。


「……わぁ……」


 僕は思わず足を止め、その光景をじっと見つめる。


 異世界あちらの魔法の灯火ともしびとも違う。

 優しくて、温かくて、どこか切なくなるような、この世界特有の光。


「すごい……街が、燃えているみたいに明るいです……」


「あはは、燃えてるって表現はリュカくんらしいね。でも綺麗でしょ? これが東京のクリスマスだよ」


 絵莉さんは僕の顔を覗き込み、満足そうにうなずいた。

 僕の瞳に映るイルミネーションを、彼女はもっと愛おしそうに見つめている。


 青と白の光が、雪の結晶のように街路樹を彩っている。その下を、幸せそうな恋人たちや家族連れが笑いながら通り過ぎていく。


「リュカくん、こっち! あそこの並木道が一番綺麗なんだから!」


「あ、絵莉さん、ちょっと……っ」


 溢れかえる人混みに押され、絵莉さんの背中が少しずつ遠くなる。

 ぼんやりしている間に、誰かの肩がぶつかり、僕はバランスを崩しかけた。


(……はぐれる……!)


 そう思った瞬間、ぐい、と右手を強く引かれた。


「はい、捕まえた! 迷子防止、ね」


 振り向くと、絵莉さんが僕の手をぎゅっと握りしめていた。

 柔らかくて、驚くほど温かい手のひら。

 

「……っ!」


 視界のイルミネーションが、一気に熱を帯びた気がした。

 心臓の音が耳元まで届く。リュカくんの顔は、通りの街灯よりも、クリスマスのオーナメントよりも、真っ赤に染まっていた。


「あ、あの、絵莉、さん……」


「離さないからね? リュカくん、放っておくとすぐどっか行っちゃいそうだし」


 絵莉さんは少し照れくさそうに笑いながら、でも繋いだ手には力を込めたまま、ゆっくりと歩き出す。

 そのときだった。

 僕の胸の奥で、静かに眠っていた魔力がふわりと浮き上がった。


 繋いだ手から伝わる鼓動、目の前のキラキラした光景、そして――自分に向けられた真っ直ぐな笑顔。


 それらが混ざり合って、無意識のうちに指先から魔力がこぼれ出す。


「……あれ?」


 絵莉さんが声を上げた。

 僕たちが通り過ぎる瞬間、街路樹のイルミネーションが、まるで波紋を描くように一層強く輝いたのだ。


 一瞬だけ、街中の電飾が「ありえないほどの輝き」を放つ。


 それは魔法と電気が共鳴した、一夜限りの奇跡の光。


 周りの人々が「すごい!」「急に明るくなった!」と歓声を上げ、空を見上げる。


 眩い光に包まれて、僕は繋いだ手を自分の胸元に引き寄せた。


「……こんなに沢山の光があっても、僕は……絵莉さんの隣が、一番落ち着きます」


「……っ」


 今度は、絵莉さんが息を呑む番だった。


 光の渦の中で、ぼんやりしているはずの僕の視線が、しっかりと彼女を捉える。


「魔法で出した光より、今のほうがずっと……綺麗に見えるから」


 絵莉さんは顔を真っ赤にして、繋いでいない方の手で自分の口元を覆った。

 彼女の瞳が潤んで、イルミネーションよりもずっと強く、宝石みたいに煌めいている。


「……もう。リュカくんって、時々ずるいこと言うよね」


 小さな文句とは裏腹に、彼女は僕の腕にそっと寄り添った。

 パチパチとはじけるような、甘くて少し切ない冬の魔法。

 僕たちは光の中を、いつまでもゆっくりと歩き続けた。

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