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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第83話 昨日の記憶がないんですが、これってもう公認ですか?

 目が覚めた瞬間、ずきん、と鈍い痛みが頭の奥を叩いた。


(……いたい。すごく、いたい)


 私は布団の中でうめきながら、そっとこめかえを押さえる。


(昨日……私、何した……!?)


 思い出そうとすると、ふわふわした感触と、あっくんの声と、やけに近かった距離だけが断片的に浮かんで、肝心なところがすっぽり抜け落ちている。


(や、やばい。これはやばいやつだ)


 でも今日は休みだ。仕事がないだけ、まだ救いがある。


 重たい体を引きずって洗面所へ向かうと――


「……」


「……」


 鏡越しに、あっくんと目が合った。


 一瞬、時間が止まったみたいに、二人とも動けなくなる。


「お、おはよう……」


「……おはよう、みのり」


 声が、どちらもぎこちない。


 あっくんは視線を逸らし、私は洗面台の蛇口を無意味にひねる。


(この空気、絶対おかしい……!)


 そこへ。


「……どうしたんですか、お二人とも」


 背後から、ルカくんの不思議そうな声。


「朝から、妙に距離があるというか……」


「緊張しているように見えます……」


 リュカくんまで首をかしげる。


「タヌロフもそう思うたぬ。空気がもやもやしてるたぬ」


「な、なんでもないよ!」


 私は慌てて否定するけれど、声が裏返ってしまった。


 あっくんも咳払いを一つして、


「些細なことだ。気にするな」


 と、いつもより少しだけ早口だった。


 リビングに戻ると、テレビでは朝の情報番組が流れている。


『もうすぐクリスマス! 恋人と過ごす特別な一日――』


 そんなナレーションを聞きながら、私はソファに腰を下ろした。


(クリスマス……恋人……)


 ちら、と横を見ると、あっくんも画面を見つめたまま、珍しく黙り込んでいる。

 ルカくんはどこか落ち着かない様子で、リュカくんも誰かの顔を思い浮かべたのか、少しだけ視線を伏せた。


 タヌロフは、


「クリスマス……おいしいものがいっぱいの日たぬ?」


 と、純粋に首を傾げていた。


 それぞれの胸に、それぞれの“誰か”が、ぼんやりと浮かんでいることに私はまだ気付かないふりをしながら、ずきずきする頭をそっと押さえた。


(……昨日のこと、ちゃんと思い出したら、もっと頭痛くなりそう)


 そんな様子を見ていたあっくんが、私の顔を覗き込むようにして口を開いた。


「二日酔い、か?」


 ぎくり、と心臓が跳ねる。


「わ……私、昨日……何か、しちゃった?」


 恐る恐るたずねると、あっくんは一瞬だけ目を伏せ――次の瞬間、わざとらしく大きく息をついた。


「まさか……あんなことをされるとは、思わなかったぞ」


「えっ!?」


 あっくんの言葉に、私は一気に顔が熱くなる。


「え、えっ……あ、あんなことって……!? ど、どこまで……?」


 必死に思い出そうとしても、頭の奥がじんじん痛むだけで、肝心なところがすっぽり抜け落ちている。

 そんな私を見て、あっくんは一瞬だけ目を伏せ――それから、わざとらしく咳払いをした。


「……抱きつかれた」


「っ!?」


「膝にも乗られた」


「ええっ!?!?」


「その上――」


 そこまで聞いて、私はもう限界だった。


「ご、ごめんなさいごめんなさい!! 私、ほんとに覚えてなくて……!!」


 深々と頭を下げた、そのとき。


「冗談だ」


 あっくんの声が、くすっと笑いを含んで落ちてくる。


「……え?」


 恐る恐る顔を上げると、あっくんはどこか楽しそうに、けれど少し照れたように視線を逸らしていた。


「少し、大げさに言ってみただけだ。そこまで狼藉ろうぜきは働いておらぬ」


「……ほ、ほんと?」


「ああ。だが――」


 言葉を切って、こちらを見る。


「嫌ではなかった」


 その一言で、また頭痛とは別の意味で、頭がくらくらした。


「……も、もう! からかわないでよ……」


 私が唇を尖らせた、その背後から。


「ふうん」


「なるほど」


「たぬ……」


 二人と一匹の声が、妙に揃って聞こえてきた。


 振り返ると、そこには腕を組んだルカくん、口元に手を当てたリュカくん、そして尻尾を揺らすタヌロフ。


「その様子だと……」


「もう、隠す気もない感じですね」


「お似合いたぬ」


「なっ……!?」


 一斉に視線が集まり、私は完全に逃げ場を失う。

 あっくんも一瞬たじろいだ様子を見せたが、すぐに観念したように小さく息を吐いた。


「……余とみのりは、その……」


「え、ちょ、ちょっと待って!?」


 止める間もなく。


「大切な存在だ」


 静かで、けれどはっきりした声だった。


 一瞬の沈黙。

 それから――。


「やっぱり!」


「納得しました」


「おめでとうたぬ!」


 三人はそれぞれ、穏やかな笑みを浮かべていた。

 冷やかしも、詰問きつもんもない。ただ、最初からわかっていたみたいな顔で。


 私は胸の奥が、じんわり温かくなるのを感じながら、小さく息を吐いた。


(……なんだ)


 心配してたの、私だけだったのかも。


 隣を見ると、あっくんが少しだけ照れたように、でも堂々と立っている。


 その姿を見て、二日酔いの頭痛よりもずっと強い、別の鼓動が胸を打っていた。

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