第70話 町内会最強の刺客、佐久間さん襲来!魔王、まさかのホスト疑惑!?
夕暮れの街にオレンジ色の光が落ちるころ、あっくん、ルカくん、リュカくんはバイトを終えて並んで歩いていた。
そのとき――。
「あら……? あらあら? あらっ……?」
スーパーの袋を両手に抱えて歩いてきたのは、町内会の敏腕おばちゃん、佐久間さんだった。
短めのパーマにしっかり入った赤い口紅、胸元に大きな花のブローチ。
商店街の誰もが逆らえない、ある意味この界隈の“魔王”みたいな存在である。
佐久間さんは、じーっとあっくんの顔ににじり寄った。
「……あらぁ!!! あなた、アツシくん!!?」
ぱぁっと花火みたいに目が輝く。
「ま! ルカくんは分身してる……!?」
「ぶ、分身じゃありません!」
ルカくんが慌てる。
「ぼ、僕は双子の弟のリュカです……」
リュカくんが控えめに補足した。
「まぁ〜! 瓜二つねぇ……!」
佐久間さんは二人の頬を両手で挟みそうな勢いで、顔を右左へ見比べた。
「まさか戻ってきてるなんて! ねぇアツシくん、また町内会来てくれないの?」
「余……いや、アツシは今仕事の掛け持ちをしている。スーパーのあとも仕事があるのだ」
あっくんは相変わらず真面目に答える。
「夜からの……仕事?」
佐久間さんの眉がピクリと跳ねた。
「ホストクラブね!? そうでしょう!?」
「ほすと?」
あっくんは本気で分かっていない。
「おばちゃん通うわ!! みんなとお酒飲めるなら、いくらでも通う!!!」
佐久間さんは両腕にスーパーの袋を抱えたまま、なぜかガッツポーズ。
「あ、あの……なにか誤解をしていませんか……?」
ルカくんが必死に止めようとした、そのとき――。
「……あっくん?」
買い出しの袋を提げたみのりが、角から現れた。
「みのりちゃん!? アツシくんたち、帰ってきてたのねぇ!」
佐久間さんは嬉しそうに駆け寄ってくる。
みのりは一瞬で状況を察した。
「そ、そうなんです! 今ちょうど……その……またみんなで住んでるだけで……!」
ひきつった笑顔でなんとか合わせる。
「まぁ〜! 若い子たちと一緒に暮らすなんて、みのりちゃんも人生楽しんでるわねぇ!」
佐久間さんはご満悦。
「え、あ、はは……あはは……」
「ねぇねぇ、ホストクラブでみんな働いてるって本当なの? ねぇ、どこで働いてるの?」
「ホストォ!?」
みのりは買い物袋を落としそうな勢いで目を丸くした。
「おばちゃん、アツシくんのためならシャンパンタワー入れちゃうわよ」
佐久間さんはドヤ顔で胸を張る。
「シャンパンタワー……!?」
ルカくんが困惑で眉をひそめ、
「それは……酒の塔か?」
あっくんは真剣に考え込み、
「塔……崩れぬよう管理するのは難しそうだな」
などと言っている。
「違う違う違う違う違う!!!」
みのりは慌てて両手を振り回した。
「ホストじゃありません! ね!? ね!!?」
みのりは三人の方を向く。
「余はホストではない」
「僕たちはスーパーのアルバイトですし!」
「ぼ、僕、まだ研修中で……!」
三人は揃って首を横に振った。
「えぇ〜? そうなの……じゃあ夜からの仕事って?」
佐久間さんの目がまた細くなる。
みのりは一瞬迷い、
(……えーっと……魔物退治とか言うわけにもいかないし)
必死に脳を回転させた結果――。
「えっと……夜は……あの……! アロマのお仕事なんです!」
「アロマ?」
「アロマ!」
勢いで言った。
こうなれば押し通すしかない。
「そう! リラックスできる香りの研究を……あの……うちで……!」
「あら、素敵じゃないの〜! みのりちゃん、そういうの好きなんだと思ってたわ!」
佐久間さんは疑いもなく頷いた。
(よかった……乗り切った……?)
そう思った刹那、
「確かに……香りは重要だ。魔――」
「魔道具、とかで香りを調整できれば便利ですよね!」
みのりが慌ててあっくんの言葉に被せた。
「まぁ! 素敵じゃない! 若い子たちって本当に多才ねぇ〜!」
佐久間さんは満足そうに笑い、
「じゃあまた町内会で顔見せてね! アロマの相談もしたいし!」
と言いながら、ゆっくり去っていった。
……完全にアロマ期待されてるじゃん!!
みのりの背中に冷や汗がつーっと流れる。
佐久間さんが角を曲がって見えなくなった瞬間。
「……助かった」
あっくんが息をつく。
「危なかったですね……!」
リュカくんも胸を押さえ、
「みのりさん、嘘つくの上手になりましたね」
「褒めないで!」
みのりは涙目でツッコんだ。
スーパーの袋を持ち直し、全員でアパートへ歩き出す。
夕焼けの色はすっかり夜の紺に変わり始めていて、街灯の光が四人の影を長く伸ばしていた。
「……はぁ。もう、波乱しかないんだけど……」
みのりのため息に、あっくんがちらりと横目を向ける。
「心配するな。余がついている」
みのりは小さく笑った。
「……うん。お願いね」
こうしてまた、騒がしくも賑やかな日常が、ゆっくり夜の中へ溶けていった――。




