第69話 親友、まさかの双子沼に沈む!? 可愛い男の子は危険です
昼休み。
会社の社食で、私はいつものように絵莉と向かい合って座っていた。
メニューは、私は煮込みハンバーグ定食、絵莉は天ぷらうどん。
湯気が立ちのぼるうどんを啜りながら、絵莉がぽつりと言った。
「……彼氏が欲しい」
「ん?」
唐突すぎて、箸が止まった。
「あれ、絵莉って彼氏いたよね? 前に――」
「半年も前に振られてるわよ」
天ぷらを噛みちぎりながら、ため息をひとつ。
その表情は、立ちのぼる湯気とは対照的に沈んでいた。
「みーんな、これに寄ってくるだけなのよね」
そう言って、ゆさ、と胸を持ち上げる絵莉。
「羨ましいことでございます……」
なだらかな自分のソレを見て、小さく落ち込む私。
「私ガサツだからさ。ちょっと私生活見せると、すぐ引かれちゃうのよね……」
「あーね」
私は、絵莉の部屋に遊びに行ったときの、地層みたいに積み重なった漫画と服の山を思い出して、深くうなずいた。
「はぁ……どっかに母性本能くすぐるような可愛い男の子、落ちてないかなぁ」
その言葉を聞いた瞬間――ふわりとルカくんとリュカくんの顔が脳裏に浮かんだ。
「あ……」
「え?」
つい声が出てしまい、絵莉が怪訝そうにこちらを見る。
「いるかもしれない」
◇
土曜日の昼前。
チャイムが鳴ると同時に、私は絵莉をアパートの中へ案内した。
「こ、こんにちは」
めちゃくちゃ珍しく、絵莉が緊張している。
いつもの豪快さが消えて、声がワントーン細くなっているのがわかる。
「み、みのりさんのお友達さんですか?」
リュカくんが、おそるおそるといった感じで問いかける。
「あ、はい! 倉田絵莉と申します! みのりにはいつもお世話に……!」
突然の敬語&深々お辞儀である。
なんかキャラが違う。
「僕はリュカです。よろしくお願いします」
「僕はルカです。……その、来てくださってありがとうございます」
二人はいつも通り礼儀正しい。
絵莉はというと――
二人の柔らかい笑顔を見た瞬間。
固まった。
完全に。
まるで、金縛りにでもあったみたいに。
「……ちょ……っと待っ……これ……反則じゃない……?」
声にならない声で私の腕をがっしり掴んでくる。
目を丸くし、頬を赤らめ、明らかに動揺している。
「え、絵莉……?」
「な、なにこの……かわ……顔面偏差値どうなってんの……?」
震えながら私の耳元にささやく。
「……みのり、あんたの周り……天国?」
いや、地獄の日も多いけどね……異世界的な意味で。
「絵莉さん、どうぞ座ってください」
ルカくんがにこやかに案内する。
「えっ、あ、はい! すみません!!」
絵莉は慌ててコタツに座る。
その横に、そっとリュカくんも座る。
……その瞬間。
「…………あーーー無理。どストライクだ……」
なんか溶けてる。
絵莉の脳がショートしたのが見てわかる。
「紅茶を淹れましょうか?」
「ココアもありますよ?」
二人の優しさが全方位から飛ぶ。
そして絵莉は――
「……どっちも、お願いします……」
控えめに言った。
(そんなキャラじゃないのに……!)
私の親友が……沈んでいく……かわいい男の子たちの沼に……。
◇
みのりは絵莉を駅まで送りながら、小さく笑みを浮かべて尋ねた。
「どうだった?」
すると絵莉は、両手で頭を抱えるようにして振り返った。
「どうもこうもないわ。どうしてくれるのよ!?」
「え?」
「双子じゃない!? 私、どっちも好きになっちゃいそうよ!!!」
夕暮れの空の下で、絵莉は本気で困っている顔をしていた。
オレンジ色に染まった空を仰ぎながら、深いため息をつく。
「二人は贅沢だから、どっちかに……」
「無理よっ……私には……! あんな可愛い子たち、選べるわけないでしょ……」
みのりは苦笑しつつ、絵莉の肩をぽんと叩く。
「ま、まあ……焦らなくてもいいんじゃない?」
「でも、あんな可愛い子放っておいたら誰かに取られちゃいそうで――!」
「確かに……おばちゃん人気はすごいけど……」
二人はホームに着くまで、ああでもないこうでもないと会話を続け、
やってきた電車の前で絵莉は名残惜しそうに振り返った。
「……ねえみのり。もし私、どっちも本気で好きになったら、止めてね?」
「無理だと思うけど……頑張るよ……」
絵莉は手を振り、電車へと乗り込んでいった。
電車の扉が閉まり、走り出す。
みのりは小さく息をつく。
自分で蒔いた種だけど……これは、絶対に波乱の予感しかしない。
そう思わずにはいられないみのりなのだった。




