第68話 コタツの中で急接近!? 魔王と“将来”を語った夜
夜も更けて、みんなが寝静まった頃だった。
コタツの柔らかな熱に足を沈め、私はホットミルクの湯気を眺めながら、そっとつぶやいた。
「今日は、色々あったけど……楽しかったね」
あっくんは対面に座り、湯気の向こうで穏やかに微笑んだ。
「うむ。たまにはこんな時間も大切だな」
部屋は、間接照明だけがぽつりと灯り、橙色の光が影を長く落としている。
その光を受けたあっくんの銀髪は柔らかくきらめき、長いまつ毛が頬に繊細な影を落としていた。
……かっこいいなぁ。
魔王だなんて忘れてしまうくらい、美しい顔立ちをしている。
一緒に暮らしすぎて免疫ができたと思っていたけれど、改めて見ると胸がふわっとくすぐったくなる。
「……何を見ている?」
思い切り視線がぶつかってしまい、私は慌ててホットミルクに視線を落とした。
「な、なんでもないよっ……!」
薄暗い照明のせいか、普段より距離が近く感じる。
この雰囲気は……その……なんというか……妙にムードがある。
も、もし、もしあっくんと付き合って……。
その、結婚……なんてことになったら……。
魔族と人間……そんなの、許されるのだろうか。
「だって、子供とか生まれたら……」
口にした瞬間、あっくんの目が見開かれた。
――しまった!!
思考がそのまま声になってた!!!!
「余と、子を成したいのか?」
「ちょ、ちょ、ちょ――!!!」
私はコタツの中で足をバタつかせながら、顔を湯気より真っ赤にして叫んだ。
「ち、違うの!! そうじゃなくてっ!!」
私は両手をぶんぶん振って必死に否定する。
でも、否定すればするほど、こたつの中の空気が熱くなる。
あっくんはというと――
なぜか、ほんの少しだけ頬を赤くしていた。
「……みのりが、そういう未来を想像していたことは、少し意外だが」
「いやいやいやいや!! ただの妄想というか! その、もしもの話でっ!!」
「もしも、か」
あっくんは視線をそらし、ホットミルクをゆっくり口に運ぶ。
間接照明に照らされた横顔が、妙に静かで……なんだかこっちが照れてくる。
「余は、魔族ゆえ……人間と子を成せるかどうか、わからぬ。だが――」
言葉を区切り、こちらを見つめる。
その瞳は、今まで見たどんな魔王の顔よりも、ずっと柔らかかった。
「みのりとなら、考えてもよいと思ったぞ」
「…………っ!?!?」
心臓が跳ねた。
コタツの熱のせいじゃなく、体の奥からぶわっと熱があふれ上がる。
「ちょ、ちょっと待って……! か、考えてもよいって……!」
「みのりが先に言い出したのだろう?」
「い、言い出してないよ!! 口が勝手に……!」
あぁあああ恥ずかしい!!
一生コタツにもぐって消えたい!!!
そんな私の様子を見ながら、あっくんはふっと笑う。
「……みのりは、余と過ごす未来を嫌ではないということだな?」
その問いは、ずるい。
心の奥のいちばん大事な部分に、まっすぐ触れてくる。
嘘なんてつけるわけがなかった。
「……うん。嫌じゃないよ。むしろ……その……嬉しい、かも」
言った瞬間、空気が変わる。
結界でも張られたみたいに、静かで、温かくて――
二人だけの世界に閉じ込められたみたいだった。
そんな中、あっくんがそっと手を伸ばした。
コタツ布団の下で、指先が私の手に触れる。
「――みのり。いつか本当に“そういう未来”を迎えたとしても、余は構わぬぞ」
「~~~~~~っ!!」
心臓が破裂するかと思った。
その瞬間――
「むにゃ……タヌロフ……もう食べられないたぬ……」
隣の部屋からタヌロフの寝言が響き、私は盛大にこたつで前のめりに倒れた。
「……雰囲気が、全部持っていかれた……!」
あっくんは肩を震わせて笑っていた。
コタツの熱と、恥ずかしさと、嬉しさで胸がいっぱいになる。
――でも。
今日、少しだけ本音を言えたことは、きっと悪くない。
そんな気がした。




