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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第66話 束の間の穏やかな時間――魔王と仲間の日本観光記①

「今度のお休み、たまにはみんなで出かけない?」


 夕食の後、ふと思いついて口にした私の言葉に――


「…………えっ?」


 四人が同時に固まった。

 箸を落としかける者、飲んでいたお茶を危うくこぼしそうになる者、明らかに目を見開いて驚いている者。


「ほら、仕事に魔物退治に……って、ずっと気を張ってたし。たまには休憩しなきゃ」


 そう続けると――


「観光……ってことですか!?」


 ルカくんがぱあっと顔を明るくした。目が完全にキラキラしている。


「美味しいもの食べたいたぬ!」


「うむ。たまには良いかもしれぬな」


 タヌロフは尻尾をぶんぶん揺らし、あっくんは静かに頷いた。


 こうして、一同の“休日観光計画”が決まったのだった。


 ◇


 お出かけ当日。空は雲ひとつなく晴れ渡り、まさに行楽日和だった。


「よし、行こっか!」


 私は三人と一匹を連れて駅へ向かった。

 昨日のうちに魔法で“日本で自然に見える服”に整えてもらったおかげで、誰一人として周囲から浮いていない。

 ――正直、この日本人離れした容姿でよく紛れるなあ、と感心すらしてしまう。


 そして、満員電車に乗り込む。


「う、動く箱……いや、これが『電車』……!」


 リュカくんがきょろきょろしながらつぶやき、


「人が……多すぎます……!」


 ルカくんが潰されそうになりながら、表情をゆがめる。


 あっくんは普通につり革をつかみ直立していた。魔王の順応力はすごい。


 ちなみにタヌロフはぬいぐるみになりきるためにリュックの中でジッとしていた。


 ◇


 やがて電車が止まり、目的地の駅で降りると――


「わあ……!」


 ルカくんとリュカくんが同時に息をのんだ。


 視界の先には、空に向かってそびえる巨大観覧車があった。


「兄さん……あの大きなものはいったい……」


「ぼ、僕に聞かないでください……!」


 二人は完全に目を丸くしている。


「あれはね、観覧車っていうの。絶景が見られるから、乗ろうよ」


 説明すると、二人とも緊張と好奇心が入り混じった表情を浮かべていた。

 そして、足取り軽くそれぞれゴンドラへ乗り込んでいく。


 ◇


 ゴンドラがふわりと上昇し始める。


「すごい……海まで見える……!」


 私は窓に手を添えながら目を丸くする。


「ああ。日本の景色も、なかなか悪くないな」


 あっくんが隣で腕を組み、静かに外を眺めていた。

 少し頬にかかる銀髪が、日差しに照らされて揺れる。


 ――頂上。


 観覧車のゴンドラが止まったわけではないのに、時間がゆっくり流れたように感じた。


「……なんか、不思議だね。異世界に魔王と一緒に観覧車乗るなんて。高校生の頃の私に話しても絶対信じないよ」


「ふっ。だが悪くないだろう?こういう時間も」


 やわらかく笑うあっくん。

 その穏やかな横顔に、胸がくすぐったくなる。


 一方、双子とタヌロフは――


「た、たか、たか……っ、高いですっ!!」


「リュカ、落ち着いて……! 深呼吸です……!」


「無理たぬぅぅぅ~~~!!」


 ルカくんとリュカくんの顔は先日の巨大蛾退治より青ざめていて、タヌロフは完全に丸くなって震えていた。


 観覧車のゴンドラは静かに地上へ戻っていき、ようやく二人と一匹の悲鳴は落ち着きを取り戻した。


「……し、死ぬかと思いました……」


「高い場所は、苦手です……」


「タヌロフ、魂がどっか行ってたたぬ……」


 へろへろの二人と一匹を見て、私は苦笑しつつ声をかけた。


「次はね、もっと地面に近いアトラクションにしよっか」


 そう言うと、みんなの顔が同時にぱっと明るくなった。


 ◇


 そしてやってきたのは、公園内の大きな池。

 そこに、黄色くて可愛らしいアヒル型のボートがいくつも並んでいた。


「これに乗るのですか!?」


 ルカくんがキラキラした目で身を乗り出す。


「かわいい……っ」


 リュカくんもほわっと笑顔になり、タヌロフはすでにボートに飛びつく勢いだ。


「あっくんと私はこっちのボートね。ルカくん、リュカくん、タヌロフはあっち」


「わかりました!」


「了解です」


「まかせるたぬ!」


 こうして二艇のアヒルボートに分かれて乗り込んだ。


 ◇


 水面をきらきら反射する光を見ながら、私はペダルをこぎ始める。


「これ、けっこう運動になるね……っ」


「みのり。無理をするな。漕ぐのは余がやる」


 言うが早いか、あっくんは軽々とペダルを踏み、ボートはスイスイと進み出した。

 湖面を切り裂くように滑らかに進むアヒルボートは、周囲の人からも「速っ!?」と注目されている。


「魔王の脚力でアヒルボートを漕ぐの、なんかすごい光景だよね……」


「ふむ。こういうのも悪くない」


 どこか楽しげに微笑むあっくんに、胸がまた少しくすぐったくなった。


 ◇


 一方その頃――。


「……あれ? ちょっと進みませんね……」


「兄さん、左右のペダルがずれてる気がします……」


「タヌロフ、漕いでるというより暴れてるだけたぬ!!」


 彼らのボートは、もはや円を描くようにぐるぐる回り、岸からおじさんに「ハンドル、反対に切ってー!」と指摘されていた。


「む、難しい……!」


「ルカくん、もっとゆっくりで……!」


「進まないたぬーー!!」


 二人と一匹のアヒルボートは、なんだかんだでとても賑やかだった。


 穏やかな水面と、楽しげな声。

 魔物退治や仕事で張り詰めていた心が、少しずつほどけていく。


 こうして、みのりたちの束の間の“日本観光デート(?)”は、まだまだ続いていくのだった。

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