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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第64話 眠りを誘う怪異!? 魔王パーティ、初めての緊急討伐!

 夕暮れが街をオレンジに染める頃、私たちはそれぞれの仕事を終えてアパートへ戻ってきた。


「……ただいまー……って、タヌロフ!?」


 玄関を開けた瞬間、タヌロフが全身で“緊急事態”を訴えながら飛びついてきた。

 鼻息は荒く、しっぽはバチバチに逆立っている。


「た、大変だぬ!! でっかい蛾! 空! ぶわぁーって! 鱗粉ばらまいてるたぬ!!」


「えっ……!」


 リビングで慌ててテレビをつけると、すぐさまニュースが流れ込んできた。


『続いての速報です。市内の住宅街上空に、巨大な蛾のような生物が出現。周辺住民から“急な眠気に襲われた”との報告が相次いでいます――』


 画面には、ぼんやりと意識を失いかけた人たちが救急隊に支えられている映像。


「実害が出はじめている……まずいな……」


 あっくんの声は低く、険しい。


 その隣でルカくんがきゅっと背筋を伸ばした。


「討伐しにいきましょう。アークロン様」


「うむ。ぐずぐずしている暇はない。みのり、そなたは後ろに下がっていろ」


「わ、わかった!」


 慌ただしく準備を整えると、私たちは急ぎその現場へ向かった。


 ◇


「……いた……あそこです!」


 リュカくんが空を指さす。

 街灯を反射して、巨大な影がゆっくりと旋回していた。

 羽ばたくたびに、きらきらと細かい粒子――鱗粉が降り注ぎ、眠気を誘う魔力が波紋のように広がっていく。


「結界を張る。少しの間、光も音も外へ漏らさん」


 あっくんが短く詠唱すると、地面が静かに震え、透明な膜が夜空に広がった。


「よし、ルカ、リュカ。撃ち落とせ」


「はい!」


「了解です!」


 ルカくんとリュカくんの手から、魔力の矢が連続して放たれた。

 光の筋が夜空を裂き、巨大蛾の羽を次々と貫いていく。


「いいぞ、押してます……っ!」


「このまま――っ」


 けれど次の瞬間、巨大蛾が羽を強く震わせ、白い鱗粉の雲をぶわっと撒き散らした。


「っ……! 吸うな、二人とも!!」


 あっくんの声より早く、風に乗った鱗粉が二人に降りかかる。


「う、うわっ……なんか……ねむ……」


 ルカくんの膝ががくりと折れた。


「ぼ、僕も……あれ……?」


 リュカくんもふらふらとよろめき、その場にぺたんと座り込んでしまう。


 完全に寝落ち寸前の顔だ。


「ルカくん!? リュカくん!?」


 私は慌てて駆け寄った。


「……くっ。鱗粉を吸ったか。中級以上の魔獣にありがちな“睡眠毒”だな」


 あっくんが悔しげに眉を寄せ、すぐさま片手で二人に簡易の解毒結界を張る。


「ちょっとマシになりました……!」


「ね、眠いけど……撃てる……」


 まだ目がとろんとしている二人だったけれど、気力だけで再び立ち上がる。


「無理はするな。だが一撃だけ、援護を頼む」


「はい……!」


「僕も……!」


 二人はふらつきながらも魔力を集中させ、

 最後の魔力矢が夜空を切り裂いて放たれた。


 羽ばたきが乱れ、巨体がふらついた――その瞬間。


「とどめだ」


 あっくんが跳んだ。

 銀髪のポニーテールが夜風に踊り、月光を反射して煌めく。

 抜き放った剣が一直線に蛾の体を切り裂き、魔物は低くうめくような音を立てながら地面へと倒れ込んだ。


 すぐさま光がふわりとあふれ、残骸が粒子へと変わっていく。

 魔物の痕跡は跡形もなく消え、結界に守られた世界は騒ぎひとつ起こさなかった。


「……終わったな」


「はい……!」


 胸に溜めていた息が一気に抜けていった。


 ◇


 家に戻るとさっきまでの緊迫感が嘘みたいに、少しだけ広くなった部屋の空気はふんわりと温かかった。

 毛布にくるまり、タヌロフはすでに丸くなっている。


「たぬ……疲れたたぬ……」


「今日は大活躍だったよ、タヌロフ。おつかれ」


「うむ。よく報告した。褒めてつかわす」


 あっくんが満足げに頷くと、タヌロフは得意げにしっぽをふりふりした。


 こうして――巨大蛾騒動は、ひとまず無事に収束したのだった。

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