第63話 魔王パーティがスーパーでおば様人気を総ナメにする裏で、タヌロフが巨大蛾を発見した件
「おかわりたぬ!」
「はいはい……よく食べるね」
テーブルの端では、タヌロフが三回目のおかわりを平らげようとしていた。
人間より明らかに多い量なのに、まだ余裕がありそうなのが恐ろしい。
「食費、やっぱりえげつないかも……」
――当たり前だけど、生活するのにお金はかかる。
あっくんが真剣な顔で言った。
「この世界の紙幣も魔法で複製すれば――」
「だめ!! 絶対だめ!!」
私は全力で手を振った。
魔王の禁断の力で経済犯罪とか、想像しただけで胃が痛い。
そこへルカくんが、ほわっと柔らかい声で口を挟む。
「僕たち、またスーパーで働きましょうか」
「そうだな」
あっくんも腕を組んでうなずく。
「昼は働いて、夜は魔物退治に勤しむことにしよう」
「え、大変すぎない!?」
思わず叫んだ私をよそに、ルカくんは微笑んだ。
「大変ではありますが、みんなで生活するためです」
そこへ、きょとんとした様子のリュカくんが首を傾げる。
「……スーパーってなに?」
「うむ、リュカよ。この世界の“食と物資の殿堂”だ」
あっくんは得意げに語りはじめた。
「野菜、肉、飲み物、生活用品、そして時としてガチャガチャまで並ぶ、万能の供給拠点である」
「なるほど……すごい施設なんですね。僕も、やります」
リュカくんは瞳を輝かせながら拳を握った。
「では、明日、三人で面接を受けましょう」
ルカくんが穏やかに告げる。
「ああ、そうだな。これで生活のほうは安心だろう」
あっくんは頷きつつも、すぐに険しい顔になる。
「問題は……」
「魔物退治ですね……中級魔獣がいましたし……」
リュカくんの声は不安を含んでいた。
「ああ。ニュースにはなっていなかったことを省みると――」
あっくんは顎に手を添え、少し考え込むように言う。
「日本で自然発生した魔獣の可能性がある」
「この調子で増えてしまったら、ケガ人が出てしまってもおかしくありませんね」
ルカくんの表情も引き締まる。
「うむ。魔獣の様子を探っておくのも重要だろう。そこで……」
あっくんの視線が、ゆっくりとタヌロフへ向いた。
タヌロフは口いっぱいにお茶請けのせんべいをほおばったまま、ぴたっと固まる。
「余たちが労働している間、タヌロフには魔獣を探索する任務についてもらう」
「じ、重要任務たぬーーー!!!」
バンッ!と立ち上がり、タヌロフは胸を張った。
せんべいのかけらがぽろぽろ落ちるのもお構いなしだ。
タヌロフが「任せてたぬー!」と騒ぐ中、部屋には自然と笑いが広がっていった。
そんな和やかな空気のまま夜は更け、翌日――。
◇
朝、リビングに降りた私は思わず声を失った。
そこには、あっくん、ルカくん、リュカくんの三人が――
魔法で作った特製スーツを完璧に着こなして立っていた。
イケメン三連星が整列しているのだから、
(……ここ、ホストクラブ?)
そんな錯覚をしてしまうのも仕方ない。
全員、控えめに言っても視覚の暴力である。
「行ってまいる」
あっくんは軽く胸へ手を当て、凛々しく宣言した。
三人は並んで玄関を出て行き、私はその背中を見送りながら小さくため息をついた。
――どこに出しても恥ずかしくない、というか、目立ちすぎて困る。
◇
面接会場――つまり、近所のスーパーのバックヤード。
「えっ……!? 君ら、戻ってきたの!?」
店長は、あっくんとルカくんの姿を見るなり、目をひんむいた。
「あのときはたいへんお世話になりました。また働かせていただければと」
あっくんが丁寧に頭を下げる。
「も、もちろん大歓迎だよ! いやぁ、助かるよほんとに……!」
そこへ控えめに一歩出たのがリュカくん。
「あ、あの……僕も、働かせていただければ嬉しいです。がんばります!」
「えっ、かわ……じゃなくて、礼儀正しい子だね!? うん、採用! 三人とも今日からシフト入って!」
店長、即決だった。
秒でハンコを押したレベルである。
◇
そして数分後。
三人は制服に着替え、さっそく仕事に入っていた。
あっくんは品出しの手際が良すぎて棚が生まれ変わったように見えるし、ルカくんはレジで安定の神対応。
リュカくんはまだ慣れていないものの、控えめな笑顔が逆に刺さるらしい。
そして――
「ちょっと見て奥さん、あの子たち戻ってきたんですって!」
「いやぁ、目の保養だわぁ」
「新しい子もかわいいじゃないの……!」
おば様方、今日も大盛り上がり。
レジは気づけば大行列で、この日の売上は跳ね上がったらしい。
◇
――一方その頃、タヌロフは。
住宅街のはずれにある、小さな雑木林。
その奥の茂みの中で、タヌロフは枯れ葉をふかふかのベッドにしながら寝転んでいた。
木漏れ日がぽたぽたと落ちる静かな場所で、人もめったに来ない。
「魔物、ぜんぜん見当たらないたぬ……平和だぬ……」
完全にくつろぎきった声が漏れる。
本来は偵察任務の真っ最中なのだが、どう見ても昼寝スポットを極めているだけにしか見えない。
――だが、そのとき。
ふっ……。
光が遮られ、タヌロフの体に影が落ちた。
「たぬっ!?」
タヌロフは跳ね起きて空を見上げる。
巨大な蛾のような怪物が、ゆっくりと上空を旋回していた。
木々の隙間からでもはっきりとわかるほどの巨体。
ばさり、ばさりと風圧を生みながら飛ぶたび、鱗粉が細かい光となって降り注ぐ。
「あ、あれは絶対ヤバいやつたぬ……!」
尻尾を最大に膨らませ、タヌロフはふるふる震える。
「大変たぬ……! 魔王様に報告するたぬ!!」
短い足で、しかし必死の全力疾走。
枯れ葉をばさばさ蹴散らしながら、タヌロフは森から飛び出していった。
静かに迫る次なる脅威は、すぐそこまで来ていた――。




