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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第62話 深夜の魔獣バスターズ、いざ出動!? 可愛いうさぎの次に来たのが中級魔獣なんて聞いてない!

 街灯の届かない細い路地へ入り、一行は足音を潜めて歩いた。

 昨夜と同じ場所――謎の魔物が目撃された空き地に近づくと、草むらが小さく揺れた。


「……いた!」


 リュカくんが小声で指さす。

 そこにいたのは、丸くてふわふわした耳を持つ、小さなうさぎのような魔物だった。

 赤く光る瞳がこちらを見上げる。

 とてもおとなしく、敵意の欠片もなかった。


「こ、この子……倒すの!?」


 思わず声が裏返る。あまりにも可愛すぎる。


「みのりはきっとそう言うと思い、捕獲器を用意していた」


 あっくんが得意げに腰の袋を叩いた。

 そこから取り出したのは、球状の小さな魔道具。魔物を安全に捕獲し、異世界へ転送する専用の道具らしい。


「いくぞ。落ち着いてな」


 あっくんの合図で、ルカくんとリュカくんが左右からそっと魔物を誘導し、タヌロフが持ってきた食べ物で気を引く。

 うさぎの魔物がひょこひょこ近づいた瞬間――


「今だ!」


 魔道具が柔らかな光を放ち、ふわりとうさぎ魔物の体を包みこむ。

 光は円を描き、次の瞬間、ぽんっと音を立てて魔物は消えた。


「……やった!!」


 胸の奥の強張りがほどける。

 これなら、誰も傷つけずに済む――そう思った、その直後だった。


 ――ズゥン。


 地面が低く唸った。

 草むらが裂け、黒い巨体が姿を現す。

 赤い牙、鋭い爪。まるで山に住むクマをそのまま凶悪に進化させたような中級魔獣。


「な、なんでこんなのが……!」


 ルカくんが震えながら後退る。


「あ……あの規模は捕獲器じゃ無理ですよ!」


「ど、どうしよう……倒さなきゃ……!」


 リュカくんが青ざめながら杖を握りしめた。

 魔獣は低く息を吐き、明らかにこちらへ殺意を向けてくる。


「下がれ」


 あっくんが一歩前へ出た。

 その瞬間、空気そのものが震える。魔王特有の重圧が周囲に満ち、魔獣がひるんだように足を止めた。


「手間をかけさせるなよ……!」


 銀髪が闇にきらめき、あっくんの指先から黒紫の魔力が走る。

 放たれた魔力は一閃の光となり、魔獣の動きを一瞬で止め――巨体が崩れ落ちるのに、時間はほとんどかからなかった。


「しゅ、瞬殺……!」


 私は思わず呆然と口を開いたまま固まってしまう。


「で、でも……こんな派手な魔法……騒ぎになったら……」


 私が青ざめてあたりを見回すと、あっくんは落ち着いた様子で手を払った。


「心配いらぬ。さきほど展開した“遮魔結界”がある」


 そう言って指先を軽く動かす。すると、私たちの周囲にうっすらとゆらめく膜のようなものが浮かんで見えた。


「この結界の内側では、魔力の光も音も外には漏れん。周囲からは、我らがただ夜道を歩いているだけにしか見えまい」


 なるほど……確かに道の向こうの住宅も、夜の静けさのままだ。


 私は胸をなでおろした。


「このまま放置するわけにはいかぬな。異世界産の魔物は、痕跡すら残せぬ方がよい」


 低くつぶやき、片手をかざす。


「《還元の霧》」


 魔獣の巨体が、ふわりと青い粒子にほどけていく。

 まるで霧が朝日に溶けるように、跡形もなく空気へと消散していった。


 光も音も結界に遮られ、外の世界には何ひとつ伝わらない。


 ――初日にしては、完璧な立ち回りだった。


 私は深く息を吐き、あっくんたちと並んで家へ戻った。


 ◇


 部屋に入ると、昨日あっくんたちが設置した“異空間重結界”のおかげで、六畳のはずのスペースはまるでスタジオ並みに広くなっていた。

 フローリングの上に広めのラグが敷かれ、奥には即席の作業机、壁際には収納棚まで増えている。


 それぞれが思い思いにくつろぎはじめる。


 ルカくんは「ふぅ……」と満足げにラグに寝転び、リュカくんは持ってきた魔導書を膝にのせて読みふけっている。

 タヌロフはコタツへまっしぐらに走り込み、わずか数秒で丸くなった。


「あったかいたぬ……ここがタヌロフの定位置たぬ……」


 あっくんは、例のたぬ助を大事そうに抱えつつ、ゆっくりソファに腰を下ろした。

 その表情は、異世界の魔王とは思えないほど穏やかだった。


「うむ……戦いのあとの静寂も、悪くないな」


 その言葉を聞いて、私はようやく肩の力が抜けた。

 日本に魔物が現れた。

 だけど、あっくんたちがいればきっと乗り越えられる。


 そんな確信が、じんわり胸に広がっていく。


「……よし。初日、無事クリア……」


 私は小さくつぶやき、広くなった部屋の空気を胸いっぱい吸いこんだ。


 こうして、日本での“魔物討伐生活”は、順調な第一歩を踏み出したのだった。

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