表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/120

第60話 異世界魔王、現代日本の闇へ出撃!? はじめての“夜パトロール”

「みのりたちのことも心配やっちゃけどね、母ちゃんたちも家のことが気になって仕方なかとよ。いったん戻らんとどうにもならんけん、今日は帰るけんね」


 玄関の前で、母が名残惜しそうに私の手を握った。

 父も荷物を持ちながら、心配と安心が混ざった顔ではにかむ。


「何かあったらすぐ連絡するんだぞ」


「うん……本当にありがとう。ふたりのおかげで帰ってこれたし……」


 何度も抱きしめられて、やっと見送ったころ。

 ドアが静かに閉まり、部屋の中には――

 私、あっくん、ルカくん、リュカくん、タヌロフの四人と一匹が残った。


 そして、すぐに重い空気が漂いはじめた。


「さて……魔物退治の段取りを決めるぞ」


 みんながコタツに潜り込む。


「テレビの報告では、まだ低位の魔物しか確認されていないようだな」


「数は増えてるみたいですね」


「ニュースにならない程度に処理する必要があると思います……」


「タヌロフ、スライムだったら任せるたぬ! 踏んだら爆発するタイプじゃなければいいたぬ!」


 わいわいしているけれど、状況は深刻だ。

 もたもたしていると魔物が繁殖するかもしれない。


「とりあえず今日は周辺の巡回と観測。明日から本格的に討伐だな」


 あっくんがまとめると、皆がうなずいた。


 ……そこで、ふと気づく。


「ねぇ、みんな……この部屋……改めて狭くない?」


 六畳のワンルーム。

 ベッドと机と本棚で半分埋まってる。

 そこに人間一人、魔族三人+魔獣一匹って……無理では?


「ぎゅうぎゅうですね……」


「僕、呼吸するたびに誰かの肩に当たります……」


「タヌロフ、つぶれちゃうたぬ……!」


「……仕方ない。我が結界術を使うか」


 あっくんが静かに立ち上がった。

 日本に満ちた新しい魔力が、薄い青となって彼の手に集まる。


「ゲートが開いた影響で、この世界でもある程度の魔法が行使できるようになった。なら――」


 押し入れの前に立つと、指先で小さく円を描く。


「“異空間重結界ポケット・ドミニオン”」


 空気が震えた。

 押し入れの奥が、ぐにゃりと歪みながら――

 奥へ、奥へと伸びていく。


「……うわ、広っ!?」


「こ、これは……十畳くらいある……!」


「タヌロフの専用スペースも作れるたぬ!?」


「大丈夫だ。空間は分割できる」


 あっくんが満足げにうなずいた。


「みのりの部屋を傷つけず、わずかな魔力で維持できる。これで寝起きには困るまい」


「す、すごい……! 異世界にいるみたい!」


「異世界の魔王ゆえ……だな」


 得意げに腕を組むあっくんの隣で、ルカくんとリュカくんも目を輝かせていた。


 でも、感動に浸ってばかりもいられない。

 今日の目的は――夜の巡回。


 ◇


 外に出ると、冬の空気がひやりと頬を刺した。街灯に照らされた住宅街は静かで、人の気配は少ない。

 こんな場所に、本当に“こっちに流れ込んだ魔物”が出るのだろうか……と、胸がざわつく。


「まずは気配の濃いところからだな」


 あっくんが空を仰ぐ。銀髪のポニーテールが夜風に揺れた。


「周囲の魔力の偏り……微量ですが、確かに感じます……」


 リュカくんが眉を寄せる。


「人の目があります。派手な魔法は使えませんね」


 ルカくんが小声でつぶやいた。


「大丈夫だ。まずは観測が主だ」


 あっくんは淡々と歩みを進める。

 その横顔は、テレビの前でスライムのニュースを見たときよりずっと真剣だった。


 私はというと……周りをきょろきょろしすぎて、ただの不審者みたいになっていた。


「……な、なんかいるっ……!!」


「落ち着け。猫だ」


 あっくんが指さす先には、住宅の塀の上からこちらを睨む黒猫が一匹。


「……なんだ……猫かぁ……」


「焦るのは当然です。みのりさんは一般人ですから」


 リュカくんが優しく微笑む。


「異常があれば余が守る。安心するがよい」


 そう言われると、なんだか心が少し軽くなった。


 しばらく歩き、住宅街から川沿いの遊歩道へ。

 ひんやりした川風が吹いて、街灯の影が長くのびる。


「……ここ、魔力の流れが少し乱れています」


 リュカくんが立ち止まった。


「確かに。結界が弱まったか……あるいは“こっちの魔物”が通った跡かもしれませんね」


 ルカくんが目を細める。


「遭遇したらどうする……? 倒すの?」


 私は息を呑んだ。


「今夜は観測だ。見つけても追うだけにする」


 あっくんは振り返り、私と目を合わせて静かに言う。


「無理はせぬ。みのりの世界を守る戦い……余は慎重に進める」


 胸の奥がぎゅっと熱くなる。


 そのとき――川の向こう、街灯の下で何かが跳ねた。


「……いました!」


 ルカくんが声を押し殺して走り出す。


「待て、距離を保て!」


 あっくんが低く指示し、一同が影のように動いた。


 私も息を止めながら、闇の中で揺れる“何か”を追う。

 丸いシルエット。光に反射する、赤い目。


 ニュースで見た“うさぎのような魔物”――!


 だが次の瞬間、そいつは素早く身を翻し、川沿いの草むらへ跳ねて消えた。


「……逃げましたね」


「動きが速すぎます……」


 ルカくんとリュカくんが肩で息をしながら戻ってくる。


「よし、位置は把握できた。明日の討伐に備えて準備するぞ」


 あっくんが静かに言った。


 ――こうして、魔物退治初日の“前夜”は静かに更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ