第58話 世界をつなぐ青白い光――帰還のとき、迫る!
勇者城の転移準備室。
魔力制御核が淡く青白く脈打ち、床に刻まれた魔方陣が静かな光を放っていた。
私と、両親と、あっくんが並ぶ。
「アークロン様は日本で生活するんですね……」
「また、離れ離れですか……」
ルカくんとリュカくんが少ししゅんとした顔で言う。
その声には、隠しきれない寂しさがにじんでいた。
「タヌロフも、寂しいたぬ……」
タヌロフも、ちょこんとうなだれた。
あっくんは二人と一匹を見まわし、そっと優しい笑みを浮かべた。
「……お前たち。だが、この世界を動かしていく者は必要だ。余がいなくなる以上――」
視線が、横で魔法制御核を調整していたリオルくんへ向く。
「……リオル。後は、お前に託す」
リオルくんは一度だけ深くうなずき、右手を差し出した。
あっくんは一瞬だけ驚いたように目を瞬き、それから力強く握手を返した。
「まさか、魔王とこんな仲になれるとはな。……あの時の僕は、お前を許す気なんて微塵もなかった」
リオルくんは少しだけ視線を落とし、苦く笑った。
あっくんは深く息を吐く。
彼の仲間の命を奪ってしまったことを思い出し、
「……余も、あの時は取り返しのつかぬことをした。恐れられ、攻められ、余もまた……強さに頼りすぎていた」
言葉は淡々としているのに、そこには確かな悔いがあった。
リオルくんの指がわずかに震える。
その震えには、怒りでも憎しみでもなく――長く抱え続けた痛みが滲んでいた。
「余はお前が歯向かってこなければ、はじめからこんな関係を望んでいたぞ、リオル」
リオルくんはふっと笑う。
「……もういい。お互い、道を間違えていたんだろう。だがいまは違う。お前が戻り、魔力も安定し、世界はやっと前へ進める」
あっくんはリオルくんの手を再び強く握り込んだ。
「この世界を頼んだぞ、リオル」
「任せてくれ。アークロン――友としてな」
◇
一方そのころ、工房の隅では——こそこそと、ルカくんとタヌロフが何やら荷物をまとめていた。
「……やっぱり、僕はアークロン様に仕えたいです!」
「タヌロフも仕えたいたぬ! 離れたくないたぬ!」
そこへ、いつのまにかリュカくんも腕を組んで立っていた。
「兄さんが行くなら、僕ももちろん行くよ」
「お前までか!?」
あっくんが振り返り、二人と一匹を見て目を丸くする。
「いや、いやいやいや落ち着いて!? 六畳の部屋に四人と一匹は無理だからね!? 絶対無理だからね!?」
青ざめる私。
「大丈夫です! 端っこで寝ます!」
「タンスの上で寝るたぬ!」
「僕は押し入れでいいよ!」
「全然大丈夫じゃないから!!!」
みのりの悲鳴が響く。
◇
その時――魔法陣がぱあっと輝きを増した。
リオルくんが振り返り、杖を軽く掲げる。
「転移する準備が整いましたよ!」
「ちょっ……まだ話終わってないから!!!」
みのりの叫びをのみ込みながら、魔法陣の光が一気に広がる。
「アークロン様! 僕は絶対に離れませんから!」
「これからも一緒たぬ!」
「兄さん、行こう!」
「ちょ、ちょっと! 全員一緒には住めないって――!!」
「あ、あのな……! 余はただみのりの隣に帰るだけのはずだったのだが!? なぜ軍勢のように増えておる!!?」
そのとき、父が振り返り、リオルくんに深く頭を下げた。
「リオルくん……世話になったね。一緒に魔力制御核の開発ができて、楽しかったよ」
母も目を潤ませながら続ける。
「ほんにありがとね。……どうか、この世界も頼んだばい」
リオルくんは静かに笑みを浮かべ、一歩踏み出した。
「こちらこそ……あなた方には救われた。アークロン、みのりさん、そして皆さん。向こうでもどうか元気で。――たまには帰ってきて、顔を見せてくれ」
その優しい声が響いた瞬間、魔方陣の光は最高潮に達し、視界を白が飲み込んだ。




