第56話 こんなに仲良くて大丈夫!? 和平祝いのごちそうパーティ!
長いテーブルに料理が並び、柔らかな灯りが天井に揺れる。
新たな和平を祝う「新盟の宴」は、予想以上に賑わっていた。
「見よ、リオル! この肉、実に香ばしいではないか!」
あっくんが誇らしげに胸を張る。
「……それは僕の皿だったんだが……まあいいけど……」
リオルくんは苦笑しつつ、代わりにスープを口に運んだ。
「ルカくん、この魚おいしい」
「ええ。みのりさんの世界の料理とはまた違って、面白い味ですね」
「タヌロフも食べたい!」
「お前はすでに五皿目だぞ……落ち着け」
父が呆れながらも皿を取り分ける。
「まあまあ、たまにはいっぱい食べなさい。うちも若いもんには負けとれんばい!」
「皆さんすごい食欲です……城の料理長も驚きますね……」
リュカくんは果実酒を飲みながら、満足そうにうなずいた。
談笑、笑い声、香り。
戦いや恐怖とは無縁の、穏やかな時間だった。
◇
みのりはそっと席を抜け、夜風の流れるテラスへ出た。
月を見上げていると、後ろからふわりとあっくんの気配が近づく。
「……余を置いて行くとは、どういうつもりだ?」
「ちょっと、空気吸いたくてね」
そう答えたものの、声に元気はない。
「どうした、みのり?」
「あっくん……ほんとはね、心のどこかで思ってたんだ。“また日本で、一緒に暮らせるんじゃないか”って」
視線は落ち、長いまつげが影を落とす。
「でも……あっくんがこの世界にいないと、また魔力が乱れて……たくさんの人が危ない目にあっちゃうもんね」
沈黙が落ちた。
魔王はゆっくりとみのりの横に並び、優しく言った。
「みのり……余がいない世界で、おぬしが泣くのはもっと嫌だ」
その声は、魔王らしくないほど柔らかかった。
そこへ、そっと扉が開き、リオルくんが歩み寄ってきた。
横には、なぜか父。
「……話は聞かせてもらいました。魔王アークロンをこの世界に縛る必要がない方法――ひとつ、思い当たる案があります」
「なんの話だ?」
あっくんが眉をひそめる。
リオルくんは、静かにみのり父へ視線を向けた。
「みのりさんのお父上は、機械を作る職に就いていると聞きました」
「まぁ……そうやね。機械いじりの仕事ば、ずっと」
「魔法は“力の流れ”です。その流れを制御する装置を作れれば――魔王の存在がなくとも世界は安定します。ですが、我々にはその発想がない」
リオルは深く頭を下げた。
「どうか……この世界を救う装置作りに、力を貸していただけませんか」
みのり父は驚き、少し照れながら頭をかいた。
「いやぁ……そんな大それた……けど、うちの娘が泣かずにすむなら、協力くらいするけん」
横でみのりが息を呑む。
あっくんもまた、目を見開いた。
「……みのりの父上……余のために?」
あっくんの声は、かすかに震えていた。
思わぬところから差し伸べられた“家族の情”に、胸が揺れたのだ。
「娘のためさ。あんたも……うちの大事な家族みたいなもんやろ」
その言葉に、あっくんは言葉を詰まらせる。
銀の睫毛がふるえ、揺らぎを隠しきれない。
――その空気を、ぶち壊す人物がいる。
「ちょ、ちょっとアンタたち……! そげん大事に思っとるなら、はよ結婚せんね!!」
「「お母さん!?」」
勢いよくテラスへ飛び出してきたみのり母が、胸の前で手をぱんぱん叩きながら叫ぶ。
「あんたら、もう見てられんばい! アツシさん! 覚悟決めたらどうね! 娘ばよろしく頼むけんね!!」
「ま、待て。余は、その……っ」
魔王が珍しく慌てる。
みのりは顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振った。
「お、お母さん!? 急に何言ってるの!? まだ……あの……!」
必死に否定しながらも、みのりの口元にはほんのり笑みが浮かんでいた。
目も、どこか嬉しそうに揺れている。
――まんざらでも、ない。
リオルは苦笑しつつも、場を少し整えるように咳払いした。
「……では、皆さん。落ち着いたところで、計画に移りましょう。魔力の安定装置――魔力制御核の開発です」




