第54話 母の予感!? 勇者城でまさかの再会フラグが立った件
城が見えた瞬間、私は思わず足を止めた。
――でかい。
いや、もう“城”っていうより、“山の上にそのまま刺さってます!”みたいな重厚感だ。
空気が少し冷える。
夕暮れはほとんど夜の色で、塔の影が地面に長く落ちていた。
「とうとう来たな」
あっくんが、ひとつにまとめた長い銀髪を揺らしながら呟く。
横でリュカくんが息を整え、
「僕、ちょっと緊張してます……」
と袖を握った。
「……ここが、勇者リオルの城ですか。一体何が待っているやら、ですね」
ルカくんの声はいつもより低い。
それもそのはず。
ここは人間国家群の中心、勇者を戴く巨大な城塞。
そして、魔族の天敵である勇者軍の本拠地。
普通なら魔王が来る場所じゃない。
「みのり、大丈夫か?」
「う、うん……」
本当は全然大丈夫じゃない。怖い。
けど、進むしかない。
お母さんを探したいし、勇者との和解もしたいし……。
なんとなく、胸がざわつく。
何かが変わりはじめている気配が、城から滲み出ていた。
やがて、巨大な石壁と鉄の門が目前に迫る。
見上げると、門上には多数の兵士たち。
槍を構え、私たちを警戒する視線が注ぎ込まれる。
「止まれ! ここは勇者リオル様の聖域――名を名乗れ!」
門前に立っていたのは、城門警備の隊長と思しき男。
鋼の鎧に、青紋のマント。
近衛騎士よりは下だが、謁見を取り次げるだけの地位はありそうだった。
私は息を吸い込み、前に出た。
「私たち、勇者リオルさんに会いたくて……!」
言った瞬間、空気が凍る。
(角と翼をしまった)魔王が横に立っている。
指名手配中のリュカくんもいる。
そして、私と父は異世界人。
そりゃ怪しい。
「……理由を述べよ」
兵の声が低くなる。
代わりにあっくんが一歩進んだ。
「勇者リオルに伝えろ! 魔王アークロン、正式な対話を求めて来訪したとな!」
「ま、魔王……だと!?」
「転移魔法で飛ばされたはずじゃ!?」
「に、人間の城に……自ら……?」
上の見張りたちがざわつく。
そりゃそうだ。
魔王が「話し合いに来ました」なんて、誰が想像するだろう。
私は続けるように声を上げた。
「わ、私の家族が巻き込まれているんです! 勇者さんに確認したいことがあります!」
兵士の目が揺れた。
“処刑か否か”だけで動いていたはずの勇者軍の兵士が――ほんの一瞬、迷ったように。
ルカくんが小声で呟いた。
「……やっぱり、揺れていますね」
その理由は、私たちまだ知らない。
けれど――それは確かに起きている。
隊長らしき男は数秒黙り込んだあと、ゆっくりと言った。
「……分かった。こちらから取り次ぐ。ただし、武器はすべて預けてもらう。それと――不審な行動をとれば、守備隊が即座に対応する」
「ああ、それで構わん」
魔王が頷く。
緊張の糸を張りつめたまま、私たちは門が開くのを待った。
鉄の扉が軋む。
勇者の城――いや、“聖堂城”と呼ばれる巨大要塞の内部へと、ゆっくりと道が開いていく。
その瞬間だった。
――城の奥から、確かに“誰かの声”が聞こえた気がした。
どこか懐かしくて、胸の奥を握られるような声。
「……お母さん……?」
気のせい、かもしれない。
でも、私の足は勝手に震えていた。




