第49話 リュカの戸惑いMAX! 異界の少女と魔王の事情
森の奥、追手がいないことを確認してから、四人はようやく足を止めた。
月明かりが木々の隙間からこぼれ、あっくんが組んだ焚き火にオレンジ色の火がぱちぱちと弾ける。
胸の奥に残っていた緊張が、炎を見ることでやっと緩んでいった。
リュカくんは肩で息をしながら、膝を抱えるように座り込む。
「……さて。まずは説明を聞かせてもらおうか」
あっくんが火の向こうから静かに声をかけた。
彼の金の瞳が、リュカくんを優しく、でも逃さない色で見つめていた。
リュカくんが俯きながら口を開いた。
「……僕は、どうしても兄さんや魔王様をお救いしたくて必死に魔法でゲートを開いたんです。そしたら、当たり前のようにバレてしまい……追手が少なそうな村に逃げ込もうとしたのですが、もう既に包囲されていて」
リュカくんは悔しそうに唇をかむ。
「村の入口に検問があったんです。魔力を感知する結界まで張られていました」
「追手の動きが妙に早いと思っていたが、そういうことか」
あっくんが低くつぶやいた。
「あの……ところで」
リュカくんの視線がみのりへと移る。
「その方は……どちら様なんですか?」
丁寧だが、思いきり怪しんでいる顔。
当然だ。彼にとってみのりは“突然現れた異邦人”なのだから。
「私は佐伯みのり。えっと……こちらの世界では“異界の人”っていうのかな。あっくん……じゃなくて、アークロンさんが転移したあと、日本という国で一緒に生活していて……」
「に、にほん……?」
リュカくんの目が、ぱちぱちと瞬いた。
ルカくんが苦笑しつつ、言葉を補う。
「リュカ、この方は僕たちを助けてくれた“向こう側の世界”の人です。僕やアークロン様と共に、元の世界に戻る術を探してくださっていました」
「……えっ」
リュカくんが固まった。
次の瞬間、信じられないものを見るように魔王へ視線を向けた。
「ま、魔王様……異界人の方と、一緒に……暮らしていたんですか?」
あっくんは腕を組み、焚き火の明かりの中でふっと顎を引いた。
「うむ。みのりは余に多くの助力を与えてくれた」
「……そ、そうだったんですね……! ありがとうございます、みのりさん! 僕からもお礼を言わせてください」
深々と頭を下げるリュカくんに、みのりは思わず手を振った。
「い、いやいや、そんなにかしこまらないで!? 私、ただ一緒にいただけだよ……!」
――その“和やかな混乱”が落ち着いたあとで、ようやく本題に移った。
「しかし……勇者の仕打ちは看過できぬな」
焚き火の炎を見つめながら、あっくんが低く言う。
「魔法を使っただけで死刑。そんな決まり、まともなものではない」
「ほんとだよ……!」
私の胸が熱くなる。
「あっくん、そんなの……まるで勇者が魔王みたいなことしてるよ……! でも、どうしよう。私たち、このまま逃げてるだけじゃ……」
焚き火がぱち、と大きく弾けた。
あっくんがこちらを見る。
その視線には、私が知っている“ちょっと頼もしくて、ちょっと怖い魔王の顔”があった。
「選択肢は三つだ」
彼は指を折りながら言う。
「一つ。逃げ続け、勇者の追手を完全に撒く
二つ。勇者の拠点を探り、連中の動きを封じる手立てを探る
三つ。……直接、勇者と対峙し叩き伏せる」
「三つ目は即却下だよね!?」
私は慌てて叫んだ。
「まだ状況もわかってないのに、いきなりなんて……!」
「みのりよ、恐れるな。この世界では、それしきは常道に過ぎぬ」
「だけど……!」
そこで、ルカくんが真剣な顔で言った。
「僕は……二つ目がいいと思います。勇者の情報を集めて、どう動くか判断するべきかも」
リュカくんがそれに続く。
「僕も……賛成。無理に戦う必要はないし……」
あっくんはしばらく考えてから、静かにうなずいた。
「よかろう。まずは勇者の動きを探る。村も――この森も――手が回っておる。ならば次に奴らが狙う場所を見極めねばならぬ」
焚き火の炎が風に揺れ、ぱちぱちと音をたてた。
私の胸にも、同じように小さな熱が灯った気がする。
逃げて、怯えて、ただ夜を越すだけじゃない。
これからは――ちゃんと立ち向かわなきゃ。
四人の影が、焚き火の光の中で重なった。
「では、明日から動きましょう!」
「うむ。みのり、今日はもう休むといい」
「うん……ありがと、あっくん」
そうして私たちは、揺れる炎を囲みながら、ほんの少しだけ未来に希望を見た。




