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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第47話 異世界でも同棲続行!? 魔王とOL、距離が縮まる夜

 酒場を出てしばらく歩くと、ふいに胸がずきりと痛んだ。

 現実世界の不安が、急に押し寄せてくる。


「……どうしよう。無断欠勤なんて、初めてだよ……」


 みのりは額を押さえながら、ぼそりとつぶやいた。


「絵莉、絶対心配してる……。アパートの家賃も……引き落としできるのかな……」


 頭がぐるぐるして、思わずしゃがみ込みそうになる。


 そんなみのりの前に、影がひょいと差し出された。

 見ると、あっくんが小さな包みを手渡してくる。


「余が先ほどの酒場で買っておいた菓子だ。甘味でも口にして落ち着け」


「……あっくん……ありがとう」


 包みを開けると、香ばしい焼き菓子の匂いがふわっと広がる。

 よく見ると、果実を練り込んだような鮮やかな色味。噛むと、ほろりと崩れた。


「……おいしい……」


「うむ。余の世界でも旅人に人気の菓子だ。心を鎮める作用があるらしい」


 ほんの少し肩の力が抜けた、その瞬間だった。


 ――ガサ…ゴソッ。


 茂みが揺れ、低い唸り声が近づいてくる。


「な、なに……?」


 飛び出してきたのは、灰色の体毛に長い爪を持つ獣型モンスター。

 みのりは思わず後ずさった。


「あっくん、魔法は……!」


「……使えん。ゆえに――こうするしかあるまい!」


 あっくんは外套の内側から短剣を抜き放った。

 いつの間にそんなものを? 驚くみのりの前に、彼はすっと立ちふさがる。


「みのり、下がっていろ」


 モンスターが突進してくる。

 あっくんは短剣で受け止め、地面を滑るように身を捻った。

 金属音と獣の咆哮が林に響く。


「はあっ!」


 一閃。

 短剣がモンスターの足を切り裂く。

 動きが鈍ったところを、あっくんが一気に懐へ潜り込んだ。


「これで終いだ!」


 胸元を深く突き上げる。

 モンスターは悲鳴を残して倒れ込み、やがて動かなくなった。


「……ふぅ」


 みのりは足を震わせながら問いかける。


「あ、あっくん……大丈夫……?」


「うむ。魔法は使えぬが、武器の扱いは慣れておる。余がかつて魔王軍を率いておった時代に比べれば、児戯のようなものよ」


 そう言って短剣を軽く払うと、彼はみのりに向き直り、いつもの落ち着いた声で告げた。


「心配するな。余がみのりを守る」


 その言葉に、みのりの胸は少しだけ温かくなる。

 現実の不安は消えないけれど――今は前に進むしかない。


 二人は再び歩き出した。

 離れ離れになった家族を、仲間を探すために。


 ◇


 森を抜けた先に、ぽつんと明かりのついた村が現れた。

 藁屋根の家々が並び、遠くで竈の煙がゆらりと上がっている。

 みのりとあっくんは、その村の小さな宿屋に足を踏み入れた。


「空いている部屋は一つだけ、か」


「全然平気。日本でも同じ部屋だったしね」


「うむ。みのりとなら問題なかろう」


 自然な会話。

 “同居していた二人らしい空気”がそこにあった。


 部屋に入り、みのりは荷物を置いてそのまま畳のような布床に座り込んだ。


「ふぁぁ……歩き疲れたぁ……」


「そなたの足はもう限界であろう。無理をさせたな」


「ううん。あっくんと一緒なら、平気だよ」


 みのりが笑うと、あっくんはわずかに眉を和らげた。


「……みのり。余はそなたを異界へ巻き込み、そなたの両親まで危険にさらした。本来なら、余一人で責任を負うべきことよ」


「え?」


 あっくんが、みのりの方を真っ直ぐ見た。


「みのりに不安を背負わせた。すまぬ」


 その姿は、魔王の威厳を持ちつつも、ひどく誠実で。

 みのりは、ふっと微笑んだ。


「……あっくん。そんなの、あっくんのせいじゃないよ。私がここにいるのは“自分で選んだ”の。だから謝らなくていい」


「みのり……」


「それにね。日本でも、危ないことは何回もあったけど……私、後悔したことないよ」


「む……後悔せぬとは、余の傍にいるのが心地よい、ということか?」


「そ、そうだけど、それを言葉にされると照れる……!」


「照れるみのりも……良いな」


「!! ……もうっ」


 みのりが照れ隠しに枕を投げると、あっくんは軽やかに受け止め、口元をわずかに緩めた。


 そんな時――


 ――ぐぅぅぅ……。


「………………」


「………………」


 沈黙。


「あ……あっくん、今のは……私のお腹です……」


「心得ておる。立派な音であった」


「褒めないでぇぇぇ!! 恥ずかしいからぁぁ!!」


「ふふ……食わせねばならんな。明日、村の店で食事をしよう」


 ランタンの光が揺れ、部屋の中に温かい静寂が広がった。


「……ねぇ、あっくん」


「なんだ、みのり」


「これからも、どんな世界でも……私の隣にいてね」


 その言葉に、魔王は静かに頷いた。


「当然だ。そなたを一人にはせぬ。余が必ず守る」


 同じ部屋で自然に過ごす二人の距離は、日本にいた頃より少しだけ近くなっていた。

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