第45話 まさかの全員異世界転移!? こんな大逆転聞いてません!
——光が弾け、足場が消えた。
みのりが目を開けたとき、そこはもう日本ではなかった。
「あ、あっくん……ここ、どこ……?」
隣には、同じように転移の衝撃を受けたあっくんが立っていた。
風が吹き抜ける。砂混じりの熱を帯びた風だ。目の前に広がるのは、赤褐色の岩山が折り重なる荒野。乾いた空気に、低く唸るような地鳴りが絶え間なく流れていた。
空は日本よりもずっと高く、雲は淡く光を帯びている。紫と金の混じった夕暮れのような空色が、現実味を奪っていった。
「どうやら……異界のどこかへ飛ばされたようだな。余の世界である確率が高かろう……みのり、それにご両親まで巻き込んでしまい、すまぬ」
「ううん……あっくんのせいじゃないよ。私があの場にいたんだし……もう、こうなったら私とお母さんとお父さんだけ日本に帰る方法探そ! みんなはどこに飛ばされたんだろう?」
あっくんが周囲を見渡し、表情を険しくする。
「転移の衝撃で散り散りになった可能性が高いな」
鼓動が速くなるのを感じながらも、みのりは深呼吸した。
「……探さないと」
「ああ。余もそのつもりだ」
「そういえば、ゲートは?」
「ゲートはルカが上手く閉じたようだな。魔物がみのりの世界に渡ってないとよいが」
赤い岩肌に囲まれた細い道を二人でゆっくり歩き始める。しばらく進むと、風景が少しずつ開けていき、遠くに煙の立ち上る街が見えた。
「街……? あっくん、あそこなら誰かいるかも!」
「行くぞ。情報を集めるべきだ」
荒野を抜け、石畳の街路が見え始める。
街の入り口は想像以上に静かだった。人々は足早に歩き、どこか警戒したように互いを避けるような視線を投げる。
店の看板には見知らぬ文字……なのに、何故か意味が理解できる。転移による適応か、魔王の世界の仕組みか。
すると、雑貨店の前にいた老人が二人を訝しげに見つめた。
「旅の者かね? 気をつけたほうがいいぞ」
あっくんは角や翼をしまっているからか、魔王だとは気付かれなかったようだ。
「な、何が危ないんですか……?」
みのりが尋ねると、老人は声を潜めた。
「魔法だよ。魔力を使う者は……見つかれば即刻、広場で処刑される」
「!!」
みのりは思わずあっくんを見た。
あっくんは眉をひそめたまま、静かに質問を続ける。
「何故そこまでの禁忌になっている?」
「勇者リオル様のお達しじゃ。魔族軍が魔法で世界を支配していた頃……あれは恐ろしい時代だった。あの魔王が消えたあとも魔族の残党が各地で暴れ、……だからこそ、リオル様が魔法を完全に禁じたんだ」
老人の震える声。
魔王は、ふっと目を細めた。
「どうやら余の不在の間に、世界は大きく変わったらしいな」
みのりの胸に不安が広がる。
「勇者リオル……あやつが今の権力を握っておるのか」
あっくんの声は低く、深く沈んでいた。
老人はさらに続ける。
「それに……最近、禁じられたはずの“大規模魔力反応”が観測されたって噂だ。魔法使いがどこかで禁呪を使ったんじゃないかって……皆怯えてるよ」
みのりは息を呑んだ。
「……きっとリュカくんだ」
あっくんが頷く。
「ゲートを繋いだのがあやつである以上、魔力を大いに消費したはず……勇者どもに目をつけられておる可能性がある」
「そんな……! 早く探さないと!」
「もちろんだ。しかし同時に……余も、魔族である以上、姿を悟られるわけにはいかぬな」
みのりは小さく拳を握る。
(日本とは全然違う……怖い世界になってる……でも、お母さんも、お父さんも、ルカくんも、タヌロフも、リュカくんも……早くみんなを見つけないと!)
「みのり、行くぞ。気を引き締めよ。ここは、余が知っていた世界とは似て非なる地だ」
「……うん!」
二人は人通りの少ない裏路地へと身を隠しながら、散り散りになった仲間たちを捜す旅を始めた。




