第42話 “気持ち”採取ミッション:みのりの両親編①
夜。
みのりのスマホが震え、画面に“母”の名が光る。
「もしもし? みのり!? ちょっとアンタ、どういうことね!!」
唐突な怒涛の声にみのりはビクッと肩を跳ねさせた。
「えっ、な、なにが……?」
「アツシさんが! 遠い外国に引っ越すって!! しかもすぐ行くっち聞いたけど、アンタ本当に何も言ってなかったと!?」
「え、あ、その……まあ……」
「そげな大事なこと隠しとってどうすると!! アンタの人生計画が台無しになるやんか!!」
「人生計画!?」
「結婚よ!!」
「いや決めた覚えはない!!」
その瞬間、電話の向こうで父の慎重な声が割り込んだ。
「……お母さん、少し落ち着いて。みのりも驚いとるだろう」
「落ち着いとる暇がどこにあるね!? アツシさんが行ってしまう前に、母ちゃんがちゃんと挨拶せんといかんやろ!!」
「……挨拶?」
「結婚のよ!!」
「いやだから決めてない!!」
みのりの絶叫を完全スルーし、母は勝手に話を進める。
「みのり、明日そっち行くけんね! 大至急荷物まとめよる! 父ちゃんも今スーツ出しよるけん!」
「……スーツ……!?」
「アツシさんに“娘をよろしくお願いします”って言わにゃいかんやろ!」
「言わなくていいからーーーっ!!」
みのりは涙目で叫びながら、横を見る。
そこには“気まずいの極致”みたいな顔で固まるあっくん) の姿。
「……みのり、余も……逃げた方がよいか?」
「逆に逃げたらもっとややこしくなるから絶対ダメ!!」
キッチンの陰からルカくんとタヌロフがそっと顔を出す。
「……みのりさん。僕は……出ない方がいいですよね。命の危険があります」
「タヌロフ、あの勢いは……こわいたぬ……」
「ルカくんとタヌロフは隠れてて!!」
みのりが必死で制し、スマホに向き直る。
「お母さん、本当に来るの? ていうか明日は無理なんじゃ……」
「アツシさんが外国行くとなら、今日でも明日でも行かんと取り返しつかんやんか!! アンタの結婚がーーー!」
「結婚から離れてよ!! 一回でいいから!!」
そこへ父の穏やかな声がもう一度。
「……みのり。明日、朝いちの便で行く。お母さんがどうしても、と言っているからな。……アツシくんに挨拶したいらしい」
「お父さんまで……!」
「うん……まあ……お世話になっとるみたいやしな」
通話は容赦なく、母の勢いで締めくくられた。
「アツシさんにも“母ちゃんが会いに行くけん”って伝えとき!!」
ぷつん。
みのりはスマホをそっと下ろし、静かに震えた。
「……また始まった……お母さんの暴走が……」
あっくんが申し訳なさそうに眉を下げる。
「みのりの母……余のことを“婿候補”と……余、どう対応すればよい? これは戦か?」
「違う……けど……戦より厄介かもしれない……」
みのりの胃はキリキリと痛み、小瓶の中では微かに震える光――“家族の感情”が反応しはじめていた。
こうして、最後の“気持ち”採取ミッションは、両親の強行上京によって幕を開けるのだった。




