第37話 “帰還”と“崩壊”ふたつの未来
「ただいま戻りました。調査結果を報告します」
ルカくんがまっすぐ顔を上げる。
「裂け目は……やはり向こう側から“押し開かれて”いました。リュカがゲートを繋げようとしている可能性は、ほぼ確実です」
あっくんの眉がわずかに動いた。
「向こうの世界とこちらを繋ぐゲートは、本来は双方から魔力を注がねば開かぬはずだが……今回は違った、ということか」
「はい。向こう側から魔力が一方的に送り込まれています。そのおかげで——」
ルカくんは私を見る。少しだけ、安心させるような微笑み。
「こちら側に必要な魔力量は、通常よりずっと少なくて済みます。“帰る”という一点に限れば、好条件です」
胸の奥がちくりと痛む。
帰れる手がかり……見つかったんだ。嬉しいはずなのに、なんでこんなに胸が苦しいんだろう。
「……ただ、問題もあるたぬ」
タヌロフがぽりぽり頭をかきながら口を挟む。
「ゲートが向こうから無理に押し開かれてるせいで、この世界の魔力が不安定になっているたぬ。それに……もし“完全に”開いてしまった場合は——」
タヌロフは私をちらりと見て、言葉を選ぶように続ける。
「向こうの世界の魔物が、そのまま流れ込んでくる可能性が高いたぬ。ゲートは通路たぬ。開けば誰でも通れるたぬ」
背筋がひやりとした。
「つまり……」
あっくんが腕を組み、低い声音で言う。
「ゲートが開いた瞬間、そのまま放置すれば魔物がこの世界へ雪崩れ込む。そうなればこの世界はひとたまりもない。だから——」
金色の瞳が、まっすぐ私を射抜く。
「開いたゲートは“使った直後に即座に閉じねばならぬ”それが絶対条件だ」
「閉じる……? どうやって?」
「うむ。ゲートを通ったら再度魔力を注ぎ、通路を“押し戻す”必要がある。リュカが向こうから開いたことで必要魔力量は少なく済むが……危険は消えぬ」
タヌロフも頷いた。
「だから、ゲートを安定させるだけじゃ足りないたぬ。開いた瞬間に状況判断して、魔物が来る前に閉じる準備もしとかなきゃいけないたぬ。時間との勝負たぬ」
鼓動が早くなる。
帰る手がかりが見つかったのに、その道がこんなにも危ないなんて。
私の不安を見透かしたように、ルカくんが静かに言う。
「だからこそ、日本側で魔力を増幅して、ゲートを制御する力を用意する必要があります。ここで準備できれば……帰還の可能性は、確かなものになります」
あっくんが短く息を吐いた。
「帰る道を掴むため、そしてこの世界を守るためにも——日本で魔力の痕跡を探すぞ」
胸に複雑な痛みが走ったけど……私はうなずいた。
「……うん。私も、一緒に探す」




