第29話 魔王と部下がバイトしてるから様子を見に行ったら大盛況だった件
仕事を終えた私は、夕暮れの帰り道を小走りで進んでいた。
理由はもちろん、今日からスーパーでアルバイトを始めたあっくんとルカくんが心配だったからだ。
「……店、壊してないよね?」
あの二人、力加減を間違えると壁が吹き飛ぶ。もしそんなことになったら、初日からクビにされてしまうだろう。
◇
「えっ……なにこの人だかり?」
スーパーに到着した瞬間、入り口の周りに妙な行列ができていることに気づいた。ざわつく声が聞こえる。
「今日の新人さん、めちゃくちゃイケメンらしいわよ!」
「力持ちでねぇ、米袋を片手で持ち上げて……キャー!」
……嫌な予感しかしない。
私はそっと自動ドアをくぐり、店内へと足を踏み入れた。
「余は……これをここへ運べば良いのだな?」
「はい、アークロン様。そちらは倉庫の棚へお願いします」
聞き慣れた声に振り返る。
そこには店のエプロンを身に着け、巨大な段ボールを片手で軽々と持ち上げるあっくんと、品出しリストを片手に丁寧な口調で案内するルカくんの姿があった。
しかも、周囲は女性客でびっしりだ。
「ちょっと見て……あの背の高さ……」
「銀髪の子、モデルみたい……!」
「金髪の子は王子様みたいじゃない?」
完全にアイドル扱いである。
私が呆然としていると、ちょうど通路の反対側でルカくんが気づいた。
「……み、みのりさん!? なぜこちらに?」
「え、えっと……心配で……」
言いかけた瞬間、ルカくんの顔がぱっと明るくなる。
「みのりさん! 見てください! アークロン様は今日だけで三十個以上の荷物を運び、売り場の補充も完璧にこなされました! さすが魔王城で日々鍛錬を……!」
「ルカよ、余はこれしき造作もない。余の部屋の書庫を整理するより軽いわ。あれらを全て持ち上げるには魔力を少し使うがな」
周囲の女性客がさらにざわめく。
「え、書庫全部って……何百冊よ……?」
「魔王城って今言った!?」
聞こえてます。全部聞こえてます。
私は慌てて二人のそばに駆け寄った。
「ちょ、ちょっと! あんまり余計なこと言わないの!」
すると、店長が嬉しそうに近づいてきた。
「おお、君がみのりさんか! 今日の二人、すごい人気でねぇ。お客さんが倍近く増えて売上も跳ね上がったよ!」
「そ、そうなんですか……」
「特別ボーナス、ちゃんと渡しておいたから!」
「ボーナス……!?」
見れば、あっくんとルカくんの胸ポケットに小さな封筒が入っていた。
「みのりさん! これは、お金ですよ!」
「うむ、余はこの世界の通貨に詳しくないが、働きに対する褒賞らしい」
誇らしげに胸を張るあっくんと、うれしそうに封筒を大事に抱えるルカくん。
その様子に、私は胸がじんわりした。
「……よかった。二人とも、本当に頑張ったんだね」
「当然です! アークロン様に恥じぬよう、僕は魔王城で仕えてきた者としての誇りがありますから!」
「余とて、みのりの生活を支えるために働くのは吝かではない」
「ありがと……ほんとに……」
思わず声が震えると、ルカくんが慌てて近寄ってきた。
「みのりさん!? 体調が悪いのですか!? アークロン様、みのりさんが……!」
「落ち着け、ルカ。みのりは感極まっただけだろう」
あっくんが軽く肩に手を置いてくる。その手があたたかくて、ちょっと泣きそうになった。
……ああ、ほんと、変な二人を拾ったなぁ。
でも、悪くない。
いや、むしろちょっと幸せかもしれない。
そんなふうに思いながら、私は二人を連れてスーパーを後にした。




