第2話 出会い②
……暗い。
急に部屋が真っ黒になって、冷蔵庫のモーター音まで止まった。
「え……また停電……?」
スマホのライトをつけると、目の前には――天井に頭をぶつけたまま静止している、“巨大な魔王”がいた。
角。翼。黒い鎧とマント。
しかもこの部屋、6畳。
「ちょ、ちょっと! あっくん!!」
「む……またその奇妙な呼び名……しかし、今は構わぬ。なにゆえ灯りが消えた?」
「きっとあなたの魔力とかのせいだよ!!」
「……余の?」
あっくんが首をかしげると、その角がさらに天井にゴンッとめり込み、白い粉が降ってきた。
「やめて! 部屋が壊れる!!」
「ふむ……この世界の建築物は脆いな」
「脆いんじゃなくて、あっくんが強すぎるの! というか――」
私はライトを彼に向けて、震える指で言い放った。
「その角と翼! どうにかして! こんなの、絶対外に出られないでしょ!!」
「む……これは我が本質ゆえ、隠すなど……」
「隠すのッ!!」
魔王がビクッとした。
「あなた、魔法とか得意なんでしょ? 人間っぽくなれない?」
「ふむ……完全に変身する術は、この世界では魔力が流れにくく困難だ。だが、“表層を抑える”程度ならば可能かもしれん」
「できるの!?」
あっくんは軽く目を閉じると、周囲の空気が微かに震えた。
黒い翼が霧のように薄くなり、ゆっくりと引っ込んでいく。
角も小さく、淡い光を残して消え――
重厚な鎧は、暗い布のようにほどけ、身体に馴染む黒いコートになった。
「……どうだ?」
「す、すご……人間っぽくなった……!」
とはいえ、身長は200センチ超。
筋肉もすごいし、コートだけやたら高級感がある。
「しかし、魔力がうまく流れん。この形態を維持できるのは長くて半日だろう」
「半日!? でも今はそれで十分……! 次は服! 人間の服、絶対いるよ!!」
「ふむ、では仕立て屋に向かうか」
「と、とりあえず近所のドン・クホーテならこの時間でもまだやってるかも! あっくんのサイズあるかな……」
「ぬ? この姿でも服が必要なのか?」
「必要なの!! そのコートだけじゃ職務質問されるってば!」
私は壊れたドアを見て頭を抱えた。
「まず……その前に……玄関どうするの……」
「開ければ良かろう」
「ちょっと待って、さっきみたいに壊さないで! 鍵壊したら管理会社に怒られるの!!」
「管理……会社……?」
「もう……いいからついてきて!!」
スマホのライトを片手に、私は非常階段へ回るため玄関脇の小窓を開けた。
「あっくん、ここから出て」
「この狭き穴から? 余に通れると思うか?」
「通って!!」
魔王はため息をつきつつ、体を小さく畳んでなんとか屋外へ。
すると、夜の風が吹き抜け、あっくんは目を細めた。
「……ふむ。魔力の匂いが薄い世界だ。だが、悪くない」
「感想はいいから。早く服買いに行くよ!」
「うむ。案内せよ、みのり」
「……あっ、呼び捨てなんだ」
「貴様が余を“あっくん”と呼ぶのだろう。対等なる呼び名だ」
「対等……? 魔王とOLが……?」
そんなやり取りをしながら、私たちは深夜の街へと歩き出した。




