表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

第28話 異世界ズ、初出勤

 朝のスーパー裏口。

 アークロンとルカは、緊張と期待を胸に従業員入口に立っていた。


「……ここが余たちの職場か」


「ど、どうしましょうアークロン様……すでに緊張で胸が……!」


 二人はぎこちない空気のまま中へ入っていく。


 ◇


 従業員休憩室。

 二人は配られたエプロンを装着しようとしていた。


 アークロンがエプロンの紐を引くと──

 ミシ……ッ。


「む? 布が脆いのか?」


「ア、アークロン様! ちぎれますちぎれます!!」


 力加減ができないアークロンを必死で止めるルカ。

 二人の初々しいやり取りを遠巻きに見ていたパートのおばちゃんが、ほんのり頬を染めていた。


「なんか……すごいイケメンが来たね」


「二人ともスタイル良すぎない?」


「背中えぐいわぁ……」


 休憩室にざわめきが広がる。


 ◇


 店外カート置き場。

 アークロンは無造作に手を伸ばし、十台以上連なった重いカートを片手でスッ……と引き寄せた。


「軽い。これは山を動かすより容易い」


 余裕の表情で整然と押し返す。


 その一部始終を見ていた買い物帰りのおばちゃん三人組。


「……ちょ、あの子片手で……?」


「なんて力強さなの!?」


「筋肉がたまらないわっ!」


 周辺に小さな黄色い歓声が飛び交った。


 アークロンは気づかない。

 ただ静かに“仕事”をしているだけだ。


 ◇


 野菜コーナーでは、ルカが箱を抱えて棚へ補充していた。


 その動きは柔らかく、王宮育ちらしい気品が滲む。


(よ、よし……落ち着いて。力は抑えて……)


 けれど、箱そのものが軽い。

 魔王軍で鍛えられていたルカからすれば、りんご箱ですら羽毛のようだ。


 すっと箱を上段に持ち上げると──

 その肩のライン、無駄のない身のこなしが視界を奪う。


 近くにいたおばちゃんたちが小声で囁いた。


「ちょっと見て……王子様がいるんだけど……」


「え、めっちゃ綺麗な顔……」


「それなのにあんな重たそうな箱を軽々と!?」


 別のおばちゃんまでスマホを構えかけ、慌てて他の店員が止めに入った。


「すみません撮影は……!」


 ルカは何が起きているのか分からずきょとんとしている。


(な、何かしました僕!?)


 していない。ただ存在が眩しいだけだった。


 ◇


 午前の勤務がひと段落すると、二人は休憩室の椅子にぐったりと座り込んだ。


「ふう……働くとは……意外と骨が折れるな」


「ぼ、僕も……でも……お客さんに笑顔で挨拶できました……!」


「うむ。そなたの働きぶり、余は見ていたぞ」


 ルカは耳まで赤くなる。


 そんな二人を遠巻きに見ながら、パートのおばちゃんたちはひそひそ声で盛り上がっていた。


「今日の新人くんたち、最高じゃない……?」


「目の保養どころじゃないわよ! もうご飯三杯いける!」


「店長、正社員にしてくれないかな……」


 二人の初勤務は、予想外の大人気で幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ