第26話 私、こんなに養う予定なかったんだけど!?
怒涛の鍋パーティから一夜明け、私はキッチンテーブルで電卓を片手に固まっていた。
現在、うちに住んでいるのは――
私、魔王のあっくん、異世界から来たルカくん、そして新入りのタヌロフ(外見はほぼたぬ助)。
人数で言えば“三人+一匹”……のはずなのに、体感は“六人家族”くらいの圧。
「みのり。何をそんな眉間に皺を寄せている」
コタツから顔だけ出したあっくんが、のそりと起き上がる。
「……生活費の計算だよ」
「生活費?」
「そう。私のお財布から、毎日いろいろ飛んでってるんのよね」
「みのりさん、僕たちそんなに負担かけてる……?」
ルカくんが申し訳なさそうに肩を落とす。
その横で、タヌロフが“たぬ助モード”のままぽふんとみのりの膝に乗り
「みのり、元気出すたぬ」
と慰めてくる。可愛い。可愛いんだけど――。
「……食費だけでも三倍。電気代は……コタツのせいで倍。あと、あなたたち洗濯物が人並み以上にあるのはなんで? あっくんなんて魔王なのにすごい量じゃない?」
「余のマントは魔力を吸うゆえ、定期的に洗わねば重くなる」
「知らなかったよその仕様!」
あっくんは胸を張るが、私の胸は張れない。なんなら請求書のほうが張ってる。
「みのり」
あっくんがこちらを見てくる。その金色の瞳はいつもより真剣だった。
「心配をさせていたのだな。すまぬ。余はお前が不安になるとは考えが至らなかった」
「う……いや、私こそちょっと弱音はいちゃっただけで」
「違う。これは余の落ち度だ」
あっくんの声が妙に重い。
その横でルカくんが手を上げる。
「みのりさん、僕、この世界のお金を稼ぐ方法を探してきます!」
「え、ルカくん、どうやって!?」
「大丈夫です! 角しまえば見た目は人なので!」
「見た目“だけ”でしょ!? 絶対バレるよ!」
そんな会話をしていると、タヌロフが胸を張った。
「タヌロフも働くたぬ!」
「あなたはまず外に出たらニュースになるからね!?」
だんだん頭が痛くなってきた。
けれど、その時――
あっくんが静かに、私の前に座り直した。
「みのり。余は本来、世界を統べる魔王。金など不要ゆえ気にしていなかった……だが、今は違う」
「……あっくん?」
「お前とともに暮らす以上、余も“この世界のやり方”に従おう。金がいるのなら稼げばよい」
「えっ、稼げるの?」
「余を誰だと思っている。戦闘職、護衛職、力仕事……どれも完璧だ」
それを聞いて、ルカくんが勢いよく頷く。
「アークロン様が本気を出せば、この世界でもすぐに職を得られます! 僕も全力で働きます!」
「タヌロフも手伝うたぬ!」
二人と一匹が、全員まっすぐこっちを見つめる。
私は気づく。
私一人が背負ってるつもりだったけど、本当は誰も私を一人にしようとはしていなかったのだ。
「……そっか。じゃあ、みんなで工夫していこうか」
「うむ!」
「はい!」
「任せるたぬ!」
こうして我が家は、“四人家族”として新たな生活へ踏み出すのだった。




