第24話 魔獣がうちの子になりました
コタツ会議の末、放たれてしまったタヌキ型の魔獣を野放しにするのは危険だと判断した私たち三人は、翌朝から魔獣捜索に出かけることになった。
正直、私は内心ビクビクだ。でも、昨日ニュースで“犬のような生物”として報じられた映像を思い出すと、放っておけない気持ちもあった。
魔獣は異世界の空気に馴染めず、歩き回るだけで魔力の痕跡を残すらしい。あっくんとルカくんはその痕跡を追えるとのことで、私たちは街はずれの小さな林へ向かった。
林に入ると、ひんやりした不自然な空気が肌を撫でた。魔力が漏れたような冷たさと、普通の動物とは違う足跡が続いている。
「あっくん、これって……」
「間違いない。タヌロフだ」
その名前を聞いた瞬間、私は思わず声を漏らす。
「タヌロフって名前だったんだ……」
さらに奥へ進むと、ついにそれは現れた。丸っこい体、ふさふさの尻尾。タヌキっぽいのに、どこか違う。赤い瞳がこちらを映して震えている。
「ひっ……!」
思わず下がった私をよそに、魔獣は攻撃してくるどころか、迷子の子供みたいに怯えていた。
「あっくん、どうするの?」
「暴れてはいない。今なら封印できる」
「僕が誘導します!」
あっくんとルカくんが息を合わせ、タヌロフの動きをやさしく制していく。二人とも戦うというより、“落ち着かせてあげてる”感じだった。
やがてタヌロフは観念したようにうずくまり、あっくんが魔力で簡易封印を施す。光がふわりとタヌロフを包み込み、赤い瞳の輝きが静かに落ち着いていった。
こうして私たちは、ひとまず魔獣タヌロフを安全に確保することができたのだった。
私はそっとタヌロフを両手で抱き上げた。
もふもふしていて、丸い。目がくりっとしていて、なぜか私の頬にすり寄ってくる。
「……かわ……」
言いかけた瞬間、あっくんが低く唸る。
「みのり。そいつは魔獣だぞ」
でもタヌロフは私にすり寄るばかりで、牙をむく気配なんて一ミリもない。
「ほら、全然怖くないよ。むしろ甘えてるし」
「確かに敵意は……ないですね……」
タヌロフはふにゃっと私の胸元に顔をうずめる。
その瞬間、もうだめだった。
「……討伐なんて無理だよ。この子、絶対いい子だよ」
その言葉を聞いて、あっくんとルカくんは同時に折れるようにため息をついた。
「保護、だな」
「保護、ですね」
とりあえずの方針が決まり、三人と一匹はそのまま帰路についた。
◇
玄関前まで来て、私ははっと気づく。
「……あっ」
「みのり、どうしたのだ?」
「……うち、ペット禁止だった……!」
三人の間に沈黙が落ちる。
「……魔獣はペットに分類されるのか?」
「普通にアウトでしょうね……」
「どうしよう……」
抱きしめたタヌロフが「たぬ?」と首をかしげる。
そんな中、あっくんがゆっくりとタヌロフの前にしゃがみこんだ。
「仕方あるまい。少しだけ術を施す」
「え?」
「このままでは住まわせられぬし、何より……お前が困っている顔は好かぬ」
あっくんはタヌロウに手をかざし、静かに呪文を紡いだ。金色の光がふわりと舞う。
そして。
「……たぬ……?」
タヌロフの姿が縮んだ。
みるみる丸く、もちもちとしたフォルムに変わっていく。
「えっ……たぬ助……!? 本物よりかわいい……!」
私がプレゼントした抱き枕“たぬ助”そっくりの見た目になっていた。
短い手足がちょこんと伸び、ぷるんとしたほっぺ。目もクリっとしている。
「人の言葉も多少はわかるようにしておいた」
あっくんは軽く息をつく。
「お世話になるたぬ!」
「「しゃべったぁ!!?」」
私とルカくんが同時に叫ぶ。
「語尾に“たぬ”が付く仕様なのですね……」
「可愛すぎるぅぅ……!」
タヌロフ――いや、新生たぬ助は得意げに胸を張った。
「みのりと一緒に住むたぬ!」
「そんな簡単に決めないで……!」
でも、もう無理だ。
私はこの子を外に戻せるようなメンタルではない。
「あっくん……ありがとう。これなら、絶対大丈夫だよ」
「余の魔力ではこれが限界だが……気に入ったなら良い」
あっくんは視線を逸らしながら言った。
ルカくんはため息をつきながらも、どこか嬉しそうに笑う。
「……これで四人暮らし、ですかね」
「うん。なんか……にぎやかになってきたね」
たぬ助が私の足首にすり寄る。
「みのり、あったかい。好きたぬ!」
「ああもう、かわいい……!」
異世界の魔王とその部下と、もちもちの使い魔。
普通なら絶対ありえない光景。だけど――。
こんなに賑やかな夜は久しぶりだった。




