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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第21話 近辺に魔獣、家には魔王。ほんと私の生活どうなってるの?

 会社の社食で、私は絵莉の向かいに座った。湯気の立つカレーうどんの匂いにほっとしながら箸を割ったところで、絵莉が眉をひそめる。


「ニュース、みた? あ、みのりん家テレビないんだっけ?」

「うん。ニュースがどうかした?」

「見たことない動物みたいなやつに、次々通行人が噛まれたんだって! この近辺だったし、怖いなって」


 私は思わず箸を止めた。


「えっ、なにそれ?」


「写真も出てたけど、犬っぽいような…...いや、でもあんなの見たことないって感じ。警察は野生動物の可能性って言ってたけどさ」


 絵莉は身を縮めた。社食のざわめきが遠くに聞こえる。私は胸の奥がひやりと冷えるのを感じた。


(見たことない動物……まさか……)


 あっくんが数日前から感じていた“揺らぎ”。あれが、この世界に生じた異常の予兆だったとしたら――。


 昼休みが終わる頃には、落ち着かない気持ちでいっぱいになっていた。


 ◇


 家に帰ると、あっくんはリビングで本を読んでいた。私の顔を見るなり、金色の瞳が細められる。


「みのり。どうした? 顔色が良くない」


「……あのね。今日、絵莉から聞いたんだけど、この近くで“見たことない動物”に人が噛まれたって。ニュースになってたみたい」


 あっくんはすっと立ち上がった。その動きは静かだけど、部屋の空気が一瞬で張りつめる。


「姿形の詳細は?」

「犬みたいだけど、違うって。写真もぼやけててよく分からなかったって」


 あっくんの眉がわずかに寄る。


「魔獣の可能性がある。この世界に漏れ出すほど、境界が薄くなっているのか……」


「やっぱり……この前、眠れなかったって言ってた“揺らぎ”と関係あるの?」


「ああ。余の勘違いではなかったということだ」


 あっくんは窓の外に視線を向ける。冬の夕暮れが赤紫に滲んでいた。


「魔獣が放たれたということは、余を追う者が近くにいる可能性が高い。みのり、今日は戸締まりを厳重にする。外には出るな」


「う、うん……」


 私は頷いたけれど、膝が少し震えた。そんな私を見て、あっくんがそっと近寄る。


「心配するな。余がいる限り、お前に指一本触れさせぬ」


 その声音は静かで、でも力強かった。


 私は息を吸い直し、少しだけ笑う。


「……ありがとう。でも、あっくんも無理しないでね。前にみたいに倒れたら困るんだから」


「ふん。余を誰だと思っている」


 言いながらも、あっくんは私の頭を優しく撫でた。


 外はすっかり暗くなり、冷たい風が窓を揺らす。


 見えない何かが近づいている――そんな不安は確かにあった。けれど、すぐ横に立つあっくんの気配が恐怖をほんの少しだけ和らげてくれる。


 この夜が、二人の世界を大きく変える前触れになることを私はまだ知らなかった。

読んでくださり、ありがとうございました!

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