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異世界魔王とOLの日常が想像以上にドタバタで困る  作者: 白月つむぎ


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第19話 異世界魔王を布団売り場に連れて行ったら、たぬ助に一目惚れした件について

 みのりの風邪がすっかり良くなった週末。みのりはコタツにぬくぬくと潜ったまま動かない大柄な影を見下ろしていた。


 コタツの中には、半眼でぼんやりしている魔王――あっくん。

 具合が悪いわけではない。ただ、コタツの誘惑に抗えていないだけらしい。


「……あっくん。ずっとそこにいると、また調子崩すよ」


「コタツ……恐るべき魔道具だ……ぬくい……出られぬ……」


「いや、それ魔道具じゃないから。ただの暖房器具だから……」


 みのりは額に手を当ててため息をつく。

 風邪から回復したばかりの自分が言うのもなんだけど、あっくんだってこの異世界(?)に来てから無茶しがちなのだ。


「ねえ、いっそ布団買おうよ。あっくん、ずっとリビングで寝てるでしょ。床じゃ冷えるし」


「布団……?」


「うん。今日はお休みだし、一緒に見に行こ?」


 あっくんはコタツ布団から顔だけ出し、こくりと頷いた。


「みのりがそう言うなら従おう。……コタツよ、また後でな」


「そんな名残惜しさ出さなくていいから」


 みのりは笑いながら、あっくんを引っ張り上げた。


 ◇


 大型インテリア店は休日でにぎわっていた。

 天井まで積み上がる布団の山を見て、あっくんは軽く目を細めた。


「これは……罠か? 余を眠らせるための結界か?」


「布団売り場は結界張らないよ。寝具だよ寝具」


 ふわふわの掛け布団や低反発の枕を手に取っては、あっくんは真剣に質感を確かめていく。


「みのり。これは柔らかすぎて沈む。これは硬い。これは……もふもふだ」


「もふもふ好きなの?」


「もふもふはよい……安らぐ……」


「そうなんだ……かわいいな……」


「何か言ったか?」


「なんにも!」


 平然を装いながらみのりが視線をそらした、そのとき――。


 棚の隅に並んだ“動物モチーフ抱き枕”が目に入った。


 ふわふわのしろくま、うさぎ、きつね、アザラシ……

 その中のひとつ、丸い目のタヌキ抱き枕と、あっくんの金色の瞳がばっちり合った。


 あっくんはぴたりと足を止める。


「……みのり。この生き物、余を見ておる」


「いや、見ては……ないと思うけど……」


「あの丸い目……見覚えがある。森にいた魔獣に似ている」


「タヌキを魔獣扱いしないで」


 しかし、あっくんはゆっくりと抱き枕を手に取り、試しに胸の前で抱きしめた。


 ぎゅむ。


「…………」


「…………」


 ふたりは無言のまま見つめ合った。


 やがて、あっくんはぽつりと呟いた。


「悪くない」


 みのりは笑ってしまった。


「かわいいじゃん、それ。ふわふわで気持ちよさそうだし」


「ふむ……余の眠りを補助するかもしれぬな」


「じゃあ、それ買おっか」


「余がか?」


「クリスマス近いし……プレゼントってことで。あっくん、いつもいろいろ助けてくれてるし」


 あっくんの金色の瞳がゆっくりと瞬いた。


「みのりから余に……贈り物を?」


「そうだよ。だめ?」


「……いや。……嬉しい」


 その言い方が少しぎこちなくて、みのりは胸がきゅっとした。

 巨大な体に似合わず、子どものように大事そうに抱き枕を抱えるあっくんを見て、なんだかくすぐったい気持ちになる。


 ◇


 帰宅すると、すぐに新しい布団を広げるあっくん。


「みのり! この布団……良い……! 光の神殿の寝具より上質だ」


「神殿の比喩がもうわかんないけど……よかった」


 あっくんはタヌキ抱き枕をもふりながら、ごろりと布団に転がった。


「……みのり。余は決めた。この抱き枕を“たぬ助”と呼ぶ」


「名前つけたの!? しかも雑にかわいい!」


 みのりは笑いながら、キッチンで夕飯の準備を始めた。

 ふと後ろを見ると、あっくんが満足そうに眠りについたところで――。


 その腕には“たぬ助”がしっかり抱きしめられていた。


「なにこの可愛い光景は」


 こんな穏やかな時間が続けばいいな、とみのりはそっと願った。

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