第13話 どっちなの?
「……つ、疲れた……」
台風が通過したあとのような静けさ。
部屋の空気は確かにいつもと同じなのに、精神的疲労だけがずしんと残っている。
横では、母に徹底的な“彼氏尋問”を受けた魔王・あっくんがまだ状況を整理しきれていない顔で腕を組んでいた。
「みのりの母上というのは……あれほど気迫のあるものなのか?」
「うん。お母さんはいつもあんな感じ……」
ため息をついたみのりに、あっくんは無言で温かいお茶を差し出す。
テーブルには母が置いていった大量の土産(ほとんど食べ物)が山積みにされていた。
「三日は食料に困らんな」
「困らないけど……冷蔵庫がパンク寸前よ……!」
冷蔵庫を開けると、ぎゅうぎゅうに押し込まれた郷土料理がぎっしり詰まっていた。
みのりは頭を抱える。
「どうしよこれ……」
「順に食せばよい」
「全部は無理……!」
そんな会話の途中で、あっくんがふと真面目な顔になった。
「……私は、母上に気に入られたのだろうか」
「むしろ気に入りすぎてたよ……。“みのりを任せられる男”って言ってたし」
その言葉に、あっくんはどこか誇らしげに胸を張る。
「ならば、私はみのりにとっても良くできた伴侶なのだな?」
不意打ちの直球に、みのりの耳が一気に熱を帯びる。
「ちょっ……! そんな……ストレートに言わないでよ……!」
「事実を述べただけだが?」
「違うの! いや違わないけど違うの! 説明難しいの!」
みのりがわたわたしていると、あっくんは冷蔵庫から煮しめを取り出した。
「母上が、みのりの好物と言っていた」
「それ、昔から好きだったやつ」
「ならば、今夜は思い出を味わうがよい」
温めた煮しめの香りが広がる。
その香りに、みのりはふっと肩の力を抜いた。
「……なんか、あっくんといると安心するんだよね」
「当然だ。私はみのりの守護者だからな」
胸を張るあっくんに、みのりは思わず笑う。
「守護者なの? 彼氏なの? どっちなの?」
「お前はどちらを望む?」
「……っ!?」
みのりの耳がじわじわ赤くなっていく。
胸の奥が、ぽん、と跳ねた。
「みのり?」
「さ、冷めないうちに食べよっ」
みのりはわざとらしく煮しめをひょいとつまみ、もぐもぐと素早く口に放り込んだ。
味を確かめるみたいに、何度も頷きながら。
「……ん、おいしい!」
あっくんから目を逸らし、黙々と煮しめに集中するふりをする。
しかし、あっくんは怪訝そうに首を傾げた。
「最初に質問したのはみのりなのに、照れているな?」
「あっくんに答えてもらいたかったんだもん!」
みのりは頬をふくらませ、さらに煮しめを口に運ぶ。
けれど耳まで真っ赤なのは隠しきれなくて――
その仕草があまりに分かりやすかったせいで、あっくんは小さく笑ってしまった。




